2023/令和5年
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インタビュー 【トップインタビュー】「まるごと移住ランド」で限界集落再生に挑む=半渡英俊・宮崎県木城町長 2023/05/02 08:30

半渡英俊・宮崎県木城町長

 「限界集落の再生が一丁目一番地」と力を込めるのは、4月に無投票で3選された宮崎県木城町の半渡英俊町長(はんど・ひでとし=69)だ。移住定住促進や就農支援などを一気に進める「まるごと移住ランド」構想に乗り出す。

 まるごと移住ランドの対象は山間部の中之又地区。ピーク時の人口は約800人だったが、現在は40人を切り、高齢化も著しい。半渡氏は「あと10年間何もしなければ消滅してしまう」と指摘。厳しい現実を見据えた上、「自然が豊かなだけではもう通用しない。新たな視点で、すぐに手を打たなければならない」と早期の事業化を目指しアイデアを練る。

 まず取り組むのは「住」だ。移住者用の住宅を整備するほか、町自身が不動産取引を促進。住居や農地の維持が大変な高齢者らから土地や建物を買ったり借りたりした上で、移住者への売却や貸し出しを行う。移住支援金も大幅拡充を目指す。一方で、旧小学校を快適な集合住宅へとリノベーションし、家を手放した高齢者に移り住んでもらう方針。半渡氏は「劇薬のような施策かもしれないが、町がしっかり関わる」と話す。

 移住者は何で稼ぐか。町は隣接する高鍋町とともに、有機農業と有機農産物の地域ブランド化に乗り出している。半渡氏は「有機農産物に特化し、JAも巻き込んで販路拡大する」と強調。「町内の有機農産物生産の比率を現在の約10%から、まずは日本の自給率並みの38%に高めたい」と目標を掲げる。「夫婦の片方が有機農業、片方が加工やレストラン運営」「町中心部の小中学校までは遠距離なので寮を設け、寮監の仕事を移住者から募る」…。特に若い世帯の移住を待望し、有機農業を核としながら柔軟な生活支援や雇用創出を行う考えだ。

 追い風もある。「地区住民の期待感が高い。また中之又神楽が今年に入り、国指定の重要無形民俗文化財に指定された。神楽は全国的に女性人気が高まっており、移住や交流の呼び水になる」と半渡氏。さらに心強いのが一般財団法人地域総合整備財団の協力だ。地域再生の専門家派遣が決定し、今後、同地区の神楽の魅力発信や関係人口創出、特産品のPRと販売ルート確立などについて指南してもらう。

 「町制50周年を迎えた。これにちなみ、まずは50人の移住を目指す。さらに、成功事例を町全体に波及させたい」と意気込む。

 〔横顔〕昨秋、ウオーキング中に自動車に追突されて堤防を転げ落ち、何カ所も骨折。幸い、頭部を強打せず、生還した。「今しかない。再生で町全体が変わらなければいけないという思い、危機感が強まった」と語る。

 〔町の自慢〕町民が穏やかなところ。武者小路実篤が理想を求めた「新しき村」や児童福祉の父とされる石井十次ゆかりの地であり、「それらの思いを町民が受け入れ、穏やかさを育んできたのではないかと感じている」。

(了)

(2023年5月2日iJAMP配信)

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