インタビュー 【トップインタビュー】持っている資源を生かして=舟木幸一・福島県昭和村長 2023/05/15 08:30

2019年に「日本で最も美しい村」連合に加盟するなど、自然豊かな福島県昭和村。一方、高齢化率は55%超、人口1100人ほどの小さな村だ。舟木幸一村長(ふなき・こういち=66)は「持っている資源を生かし、どう価値を創出するか」を生存戦略のキーワードとして挙げ、村の魅力をアピールする。
「若者が少なく、自然減で年間25人ほど人口は減る」と危機感は募る。「できるだけ社会増で差を埋めて、緩やかな減少にとどめるのが村の人口ビジョンだ」。社会増を支えるのは、生産量日本一のカスミソウの新規就農者と、村の伝統「からむし織」の体験生。今年度は、カスミソウ栽培の研修に7人、からむし織の体験に5人が参加。子連れもおり、計15人が村に加わった。
「村存続のため、新しい人を受け入れながら、産業を振興していかなければならない」と強調。移住者が入りやすい環境の醸成は、1994年度からスタートしたからむし織体験生の募集が土台となっている。国の選定保存技術となっている、植物のからむしを栽培し、繊維を採取して織り上げる技術を1年ほど住み込みしながら学ぶ。職人の高齢化が深刻で、将来的な後継者になり得ると、村民らも歓迎し応援。募集は今年度で30期生を迎えた。
職員として1期生の選考に携わった。「東京で働く会社員や現職公務員などが来る。都会の子たちが興味本位で来て、何人が逃げ出すのだろうという疑いの目もあった」と振り返る。しかし、定着率は良く「お金ではない幸せや、昭和でしかできない経験を求めて来てくれることがうれしかった」。毎年度やってくる体験生は「織姫さん・彦星さん」と呼ばれ、村民から愛される存在だ。
歓迎ムードも後押しとなり、近年ではカスミソウの新規就農者が順調に増えている。17年から研修制度を設け、生産者を育成。現在、60戸ある栽培農家のうち27戸が新規参入だ。
「昭和かすみ草」のブランド力強化に当たっては、20年に周辺自治体と振興協議会を立ち上げ。柳津、三島、金山とともに4町村による広域連携で生産拡大を図り、22年度の販売額は過去最高の6億円を超えた。現在は、農林水産省が認定する地理的表示(GI)も審査中で、「今は国内流通のみだが、輸出につながる可能性もある」とさらなる需要喚起に期待を寄せる。
順調に増える移住者に求めるのは近所付き合い。高齢化で共同作業や祭りなどができなくなりつつあるため「行事には参加してほしいと必ず話す。集落の一員、村民の一人として頑張ってもらいたい」と強調。「マンパワーが少ないことは変わらない。先端技術をしっかり取り入れながら、村民の暮らしを支えていく」とし、除雪車の自動運転化やセンサーを活用した独居高齢者の見守りなど「過疎に挑戦する」。
〔横顔〕1975年昭和村に入庁。2018年から村長。「村民全員の顔と名前を覚えて一人前」の心構えは職員時代から変わらない。
〔村の自慢〕夏秋期のカスミソウの生産量1位を誇り、23年度「かすみ草の村」を宣言。国の伝統的工芸品になっている「奥会津昭和からむし織」と共に村のシンボル。
(了)
(2023年5月15日iJAMP配信)