2023/令和5年
531日 (

コラム 【変わり始めた公務組織3】勤務環境改善への課題 2023/05/23 11:00

人事院給与局給与第一課長 植村隆生

人事院給与局給与第一課長 植村隆生氏

 先日、ある県庁の人事担当者から、地方公務員の今後の新しい働き方や終身雇用にとらわれない雇用形態などをテーマにした講演を依頼され、知事の関心が強いジョブ型雇用のほか、公務と民間をまたぐ人材交流や副業・兼業について話をしました。彼らがこうしたトピックを取り上げるのは、地方自治体でも人材確保の苦労や若手職員の離職など国と似た状況があるからです。

 人事院は昨年8月の給与勧告の際に出した報告で、公務組織がサステナブル(持続可能)であるために求められる事項として①人材の確保②人材の育成と能力・実績に基づく人事管理の推進③勤務環境の整備④給与制度のアップデート――という「四つの柱」を立て、それぞれの課題認識と対応策を提示しました。

 このうち三つ目の柱について、川本裕子総裁は今年5月1日に配信された時事通信社iJAMPのインタビュー記事(「勤務環境改善で『好循環を』 国家公務員の人材確保巡り」)で「有為な人材が来ずに水準の高い行政サービスが提供できなくなるのは国家的な課題」であると指摘。人材確保のため「長時間労働の是正やフレックスタイム制の拡充に取り組み、勤務環境を改善したい。勤務環境が良くなれば職員のパフォーマンスも上がり、その結果、良質な行政サービスを提供できる好循環が生まれる」との認識を示しました。

 そこで今回は「勤務環境の整備」をテーマに、変わり始めた公務職場の現状と課題に言及します。

 なお、コラム中の感想や意見に係る部分は筆者個人の見解であり、筆者が所属する機関の見解を代表するものではありません。

◇意欲的な提言

 人事院の有識者研究会が3月に取りまとめた国家公務員の働き方改革に向けた最終報告は、土日以外に週1日休みを追加できる「選択的週休3日」を一般職員にも可能にするフレックスタイム制の拡充を提言しました。その他にも▽終業から始業まで一定の時間を空けるようにする「勤務間インターバル」について、各府省の責務を早期に法令上明記し、最終的には全職員を対象に原則11時間の確保を目指す▽業務上支障がない限り基本的に職員が希望する場合にはテレワーク勤務ができるよう基準を明確化する――など、意欲的な内容を打ち出しました。川本総裁は前出のインタビューで「提言は関係各所と相談しながら実行に移したい」としています。

◇柔軟な制度の活用

 昨年秋、フレックスタイム制の柔軟化について筆者は各府省の人事担当者と意見交換をしました。各府省の反応は、柔軟な制度を措置することについて「職員の事情に応じた働き方の選択肢が広がることは非常にありがたい」「人材確保上も明確にプラスである」と大変好意的だった一方、実際に職員が活用するかについては「そもそも(霞が関の)業務がフレックスタイム制になじまない」「業務そのものを変えていかないとフレックスタイム制が活用できるかは疑問」といった慎重な意見もありました。

 彼らが挙げたのが国会対応業務です。「国会対応業務が非常に多く、9時から18時の間にほぼすべての仕事が発生している」「すべての職員がまちまちの時間帯に働くようになると、この時間帯(9~18時)に執務室に出勤している職員に仕事が集中してしまう」「この時間帯の業務量が変わらないと、フレックスタイム制を利用できる職員とできない職員との差が広がり、職員間の不公平感が高まる恐れがある」などの懸念が示されました。

 フレックスタイム制やテレワークが実際に広く活用され、勤務間インターバルが実効性を持つ環境を整備するには、国会対応など他律的な業務への対応が一つの壁になりそうです。

◇国会対応業務と超過勤務

 人事院が3月に公表した超過勤務の上限を超えた職員の状況によると、他律的業務の比重が高い部署(他律部署)で上限(月100時間未満、年720時間以下など)を超えた職員の割合は「国会対応業務」が最も大きくなっています。

 これとは別に人事院が同月に公表したアンケートで、国会対応業務について各府省が改善を希望する事項を聞いています。それによると、国会議員からの質問通告関係で「通告の早期化」「内容の明確化」「質疑時間を考慮した質問通告数」、質問主意書関係で「回答期限(7日以内)の緩和」が上位に来ています。また、各府省は「関係府省との答弁案の調整」「答弁作成府省の決定までに要する時間」「府省内における答弁案決定までのプロセス」など、議員への説明や質問通告後の行政内部での答弁書作成の過程にも課題があるとしています。

◇負担軽減に向けて

 国会対応業務による職員の負担を軽減するには、委員会などで政府に質問をする立場にある国会や政党の関係者に対し、質問通告時間の早期化や内容の明確化がなされるよう、人事院などから必要な協力をお願いし続けることが重要です。同時に、政府や各府省の内部で、関係者が協力して答弁書の作成過程の省力化や合理化を進めることが大切です。さらに、政治主導の時代の国会質疑の在り方や行政官の役割をどう考えるのかなど、いわゆる「政官関係」についても議論の必要な時期が来ているかもしれません。(了)

◇植村隆生(うえむら・たかお)氏のプロフィル
1972年東京都生まれ。東京大学法学部卒業。人事院に入り、給与局参事官、同生涯設計課長、同給与第三課長、人材局企画課長、事務総局企画法制課長を歴任し、現在は給与局給与第一課長。総務省、産経新聞社、米国ワシントンDCでの勤務経験もある。

【変わり始めた公務組織】

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