2023/令和5年
925日 (

コラム 【地方議会めぐる新潮流3】続・オンラインで質問可能に 2023/06/02 12:30

甲府市議会議員 神山玄太氏

甲府市議会議員 神山玄太

 前回お伝えしたように、第33次地方制度調査会の答申を受け、総務省は、本会議での一般質問について出席が困難な事情で議場にいない議員がオンラインによる方法を取っても差し支えないとする新たな判断を示しました。2月7日の自治行政局行政課長通知に盛り込まれています。

 それまでは、条例改正などの措置を講じた上で、オンラインによる方法で委員会に出席することができました。2023年1月1日時点で、委員会のオンライン出席が可能となるよう条例改正などをしたのは304自治体で、全体の17.0%です。前年の調査では、135自治体でしたから、1年で169自治体も増えました。このうち、実際に議員が委員会にオンライン出席したのは107自治体で、条例などを整備した自治体のうち3分の1が実施したわけです。

▽可能な範囲での活用

 甲府市議会は、前の任期が終わる直前の2月15日に、大規模災害などが発生した際でも議会機能を継続していくため、議会運営を継続させるための市議会の行動を定めた甲府市議会業務継続計画(甲府市議BCP)を制定しました。策定を担当した議会制度調査研究会の副会長だったため、研究会内に設置されたワーキンググループの座長として関わりました。この検討をしている時に「オンライン出席について触れるべきではないか」という議論になりました。結果として、甲府市議会ではまだ委員会のオンライン出席を可能とする条例改正などが実現していないため、記載を見送りました。5月からの新しい任期中に、議会の会議でのオンライン出席を可能とする仕組みの整備を進めていくことになります。

 このように甲府市議会は、委員会にオンライン出席できる条例改正などはまだしていませんが、改正しなくても可能な範囲でのオンラインの活用は積極的に進めてきました。例えば、民生文教委員会は、他都市の事例を調査研究するためにオンラインによる行政視察をしたり、議会基本条例特別委員会は、基本条例を策定する際にコーディネーターを呼べないケースでリモート参加をしてもらい意見を聞いたりしました。この時は委員全員が委員会室に参集しているので、条例改正などをしなくてもオンラインを使えると判断しました。

 5月8日、新型コロナウイルスの感染法上の分類が「2類相当」から、季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げられました。ひとまず、オンラインによる会議の必要性がこれまでのように求められることは少なくなると思われますが、またいつ何があるか分かりません。会議にオンライン出席できるような体制整備はこれからも必要だと思います。

▽いざという時の準備に

 オンラインであるか、オフラインであるかということは、本来であれば、ツール(手段)の問題だと思っています。委員会でオンライン出席ができて、本会議ではできない理由として、地方自治法第113条に書かれている「出席」をどう解釈するか、ということで判断されてきたのは残念でした。

 同条の「出席」の解釈は、甲府市議BCPを検討したワーキンググループでも話題になりました。「メタバース上に甲府市議会の仮想空間を作って、議員みんながアバターとなって集まればそれは『出席』になるのではないか」などの意見もあり、真剣に考えました。議会にとって大切で、求められているのは、きちんと議論して決めることです。議場に参集するという物理的な事象が重要なのではありません。役に立つ技術はどんどん増えていくので、議会が「住民の福祉の増進」を実現するために行動できる手段は、使えるようにしていくべきです。

 ひとまず一般質問だけだとしても、本会議でオンラインというツールが使えるようになったことは大きな一歩です。ここで歩みを止めず、いざという時にも議会機能を継続できるよう準備を進めていきたいと思います。(了)

◇神山玄太(かみやま・げんた)氏のプロフィル
1982年甲府市生まれ。金沢大学法学部を卒業し、早稲田大学大学院公共経営研究科を修了。日本インターネット新聞社で記者として勤務後、11年に甲府市議初当選。同年第6回マニフェスト大賞でグッド・マニフェスト優秀賞を受ける。12年に早稲田大学パブリックサービス研究所招聘研究員に就任。17年9月から1年間「関東若手市議会議員の会」会長。山梨英和大学で非常勤講師を務めた経験も。「ワイン県」山梨で活動する議員として21年にワインエキスパート資格も取得。23年4月から法政大学大学院公共政策研究科博士後期課程に在籍、5月から4期目の甲府市議。

【地方議会めぐる新潮流】

関連記事

同一カテゴリー記事

  • 【新連載】【現場力を高める1】職場を率いる 2023/09/25 11:00

     職場や組織の経営・管理…。一体、どういうものだと思いますか?年齢と経験を重ね、ついにマネジメントをする立場になった。でも自分のポストに戸惑い、迷ったことはありませんか?静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹

  • 【シティプロモーション再考6】矮小化の恐れ 2023/09/20 11:00

     今回は、シティプロモーションを推進するに当たり、具体的な事業に関するアンケート結果に言及します。取り上げる紙業は広報動画(プロモーション動画)です。関東学院大学法学部教授・社会構想大学院大学特任教授
    牧瀬 稔

  • 【シティプロモーション再考5】首長、議会の関心状況 2023/08/25 10:40

     今回はシティプロモーションに関する首長の取組み姿勢を説明します。シティプロモーションに限りませんが、首長の方針により、政策の強弱(そして無関心)が決まってきます。関東学院大学法学部教授・社会構想大学院大学特任教授
    牧瀬 稔

  • 【地方議会めぐる新潮流5】議員のなり手不足(下) 2023/08/09 15:00

     議員のなり手不足は、まず「議員になる道」を選択する人自体が少ないからではないかと感じています。甲府市議会議員 神山玄太

  • 【職場が輝く知恵とワザ5】カッコいい上司とは? 2023/07/28 13:00

     あなたの周りに「いいなあ」「見習いたい」と感じる上司や先輩がいるでしょう。自分が進んだ道を究めた職業人気質、自分が選んだ道を全うする先達の立ち姿は、後進の目にも格好よく映ります。「あの先輩のようになりたい」「あの幹部の下で働きたい」など、理想とする「人財」のモデルが組織に実在すれば、目指す存在、なりたい自分の立ち姿、目標は明瞭です。静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹

  • 【行政×ナッジの可能性3】感染症対策×ナッジ 2023/07/18 10:00

     風疹の流行を防ぐため、厚生労働省は2019年度から追加的対策を進めています。ターゲットは、制度の狭間で公的予防接種の対象から外れた40~60代の男性。この年代の男性の抗体保有率が低いため、先進国では大変珍しいことに、日本は風疹の集団免疫を獲得できていません。そこで、抗体検査や予防接種の無料クーポンを発行し、自治体を通じて郵送することで検査や予防接種を促しています。また、追加的対策の一環で、大阪大学の研究チームがナッジを活用したリーフレットを作ってクーポン券郵送時に同封するなど自治体での活用を呼び掛けています。PolicyGarage事務局/慶応大学看護医療学部特任助教 赤塚永貴

  • 【地方議会めぐる新潮流4】議員のなり手不足(上) 2023/07/06 00:00

     今年の統一地方選では「地方議員のなり手不足」が注目されました。実際にどうだったのか、選挙結果を見たいと思います。甲府市議会議員 神山玄太

  • 【職場が輝く知恵とワザ4】本当にしたいことは何? 2023/06/26 11:00

     人を率いる立場として、理想の立ち居振る舞いは、誰から学べばいいでしょうか。答えは「自分の上司や管理職」です。日々の仕事の中でよく観察しましょう。尊敬できて見習いたいと思ったり、そうでなかったりする部分の両方を学びます。静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹

  • 【シティプロモーション再考4】「逆説」に注意 2023/06/14 11:00

     今回もシティプロモーション全国アンケート結果を紹介します。成功させるポイントが見えてきます。関東学院大学法学部教授・社会構想大学院大学特任教授
    牧瀬 稔

  • 【地方議会めぐる新潮流3】続・オンラインで質問可能に 2023/06/02 12:30

     第33次地方制度調査会の答申を受け、総務省は、本会議での一般質問について出席が困難な事情で議場にいない議員がオンラインによる方法を取っても差し支えないとする新たな判断を示しました。2月7日の自治行政局行政課長通知に盛り込まれています。甲府市議会議員 神山玄太