2023/令和5年
104日 (

コラム 【シティプロモーション再考4】「逆説」に注意 2023/06/14 11:00

関東学院大学法学部教授・社会構想大学院大学特任教授 牧瀬稔氏

関東学院大学法学部教授・社会構想大学院大学特任教授 牧瀬稔

 今回もシティプロモーション全国アンケート結果を紹介します。成功させるポイントが見えてきます。

▽マンパワーと事業の関係

 図表1は、シティプロモーションを所管する組織を尋ねた回答です。担当のみが20.2%、係相当が42.5%です。合計して62.7%の自治体が係相当以下でシティプロモーションを進めていることが分かりました。

図表1 シティプロモーションを担う組織に関する回答

 ちなみに「人口規模」と「組織規模」に相関関係はありません。人口規模が大きいから課や局・部になるわけではありません。人口規模が大きくても係相当が多くなっています。

 アンケートはシティプロモーション事業も確認しています。図表2は、自治体公式アカウントのSNSの現状です。SNSを活用して自治体の認知度を高め、交流人口や定住人口の獲得に結び付けようとしています。あるいは、市民への情報提供で信頼を得て、いつまでも住み続けてもらうことを意図しているのかもしれません。3種類以上のSNSを運用しているのは62.5%でした。

図表2 自治体公式SNSに関する回答

 シティプロモーションの事業はSNSだけではありません。ゆるキャラ展開、自治体のアピール冊子作成、移住・定住などのイベント開催、観光促進キャンペーン実施、B級グルメ開発など幅広い内容です。さらに、これらの事業を進めるため、庁内の関係部門との調整も発生します。

 法定受託事務であれば実施すべき内容は明確に決まっていますが、シティプロモーションは自治事務で対象範囲は決まっていません。そのため肥大化を招いています。どの自治体も「シティプロモーション」という名の下で多様な事業を展開する傾向があります。

 図表1と図表2から推測できるのは、シティプロモーションの多くが係相当以下で運営され、同時に関連事業が多様化(多発化)しているため、担当職員にとって大きな負荷になっている可能性があるということです。

 筆者は「シティプロモーションの逆説(矛盾)」という概念を使う時があります。シティプロモーションは前向きな事業が多く、目に見える成果が出やすい傾向があります。しっかりとターゲットを絞って直接届くように進め、かつターゲットに伝わるようにプロモーションを展開すると、転入人口の促進や観光客の増加など、明確に数字として結果が出てきます。そのため担当は手を広げる傾向があります。なお、明確に結果が出てこない場合は、ターゲットの不明確さや、戦略性の欠如が考えられます。

 戦略にも簡単に言及しておきます。他自治体との違いを打ち出すことです。何を実施するかを考えるのではなく、何を放棄するかを決めることも戦略です。

 話を戻します。担当がシティプロモーションの対象範囲を広くすると、その結果、事業が増えてしまいます。増えすぎた事業により、担当の生産性は低下していきます。担当が増えれば生産性は維持されますが、それは基本的にありません。担当の生産性が低下すれば成果が見えなくなります。この状態が「シティプロモーションの逆説(矛盾)」です。すなわち、シティプロモーションをすればするほど、成果が遠のいていくのです。

 私見ですが、シティプロモーションの成果を出したいのならば「あれもこれも」から「あれかこれか」へ転換する必要があるでしょう。それには、まずは「ターゲットの明確化」です。

▽政策公害に注意

 先述した点はシティプロモーションだけに言えるのではなく、近年の自治体の政策すべてに当てはまります。筆者は「政策公害」という概念を提起しており、「自治体の多すぎる政策づくりと政策実施によって、自治体職員や地域住民に、外部不経済をもたらす」と定義しています。

 ここで言う外部不経済には▽自治体職員の療養休暇の増加やモチベーションの低下▽当初意図した政策効果が現れないこと――などが該当します。また、政策が多すぎるため、住民ニーズが的確につかめないと言えそうです。これからは意識的な政策削減が求められます。

 増えた政策に対処する方法は①職員の勤務時間を増やす(超過勤務)②職員の能力開発を進め、1人当たりの事務処理能力(生産性)を高める③職員数(非常勤職員含む)を増やす④優秀な職員を採用する⑤増加する事務量に対応しない(増加する事務は実施しない)⑤人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)などICT技術(DX)を活用して生産性を高める⑥増加する事務量の一部を外部主体に担当してもらう(公民連携や市民協働など)――の6点です。

 筆者は試行錯誤しながら①~⑥に取り組み、社会実験してきました。その中で可能性を感じるのは⑥の「増加する事務量の一部を外部主体に担当してもらう」です。現在、筆者は⑥を中心に政策(シティプロモーションを含む)を展開しています。アンケートでも、シティプロモーションの公民連携の可能性を確認しています。

▽外部視点の有無

 プロモーションは、もともとは民間企業の手法です。民間企業にノウハウが多く蓄積されています。自治体単独では、成果が限定的になる可能性が強まります。それ以前に失敗してしまう傾向が高まります。そこで、シティプロモーションの委員会、懇談会に外部有識者らを交えた議論の場があるかどうかの設問を投げ掛けました(図表3)。これは、ある意味「公民連携」と言えます。

図表3 有識者などを交えた議論の場の有無に関する回答

 その結果、外部有識者らを招いたシティプロモーションの委員会などがあるのは17.7%でした。筆者の感想は「かなり少ない」です。多くの自治体に外部有識者らが参画した委員会はなく、自治体独自に実施していることが分かりました。

 シティプロモーションが成功の軌道に乗らないのは、自治体の論理で独自に進めているのも理由の一つとしてありそうです。繰り返しますが、プロモーションは民間企業の得意分野です。ことわざにあるように「餅は餅屋」です。その分野に精通している主体者(有識者や民間企業など)の知見を得て、シティプロモーションを実施した方が成功の度合いは高まると考えます。(了)

◇牧瀬稔(まきせ・みのる)氏のプロフィル
法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。博士(人間福祉)。民間企業や神奈川県横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室、財団法人地域開発研究所研究部などでの勤務を経て17年から関東学院大学法学部准教授、23年4月に同教授。19年から社会情報大学院大学(現社会構想大学院大学)特任教授。公的活動としては、東京都新宿区や岩手県北上市、栃木県日光市、愛媛県西条市など多くの自治体でアドバイザーをしている。

【シティプロモーション再考】

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