コラム 【職場が輝く知恵とワザ4】本当にしたいことは何? 2023/06/26 11:00

静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹
▽上司を観察する
人を率いる立場として、理想の立ち居振る舞いは、誰から学べばいいでしょうか。答えは「自分の上司や管理職」です。日々の仕事の中でよく観察しましょう。尊敬できて見習いたいと思ったり、そうでなかったりする部分の両方を学びます。
日ごろの動き方、言葉の配慮と思いやり、実務の技術、庁内の調整力や外部との交渉力、そして身だしなみまで、私自身も憧れ、尊敬してきた上司は何人もいます。役所では毎年人事異動があるので、さまざまなタイプの上司に仕え、有形無形の職場教育を受ける機会が多くあります。これは組織、特に官庁ならではの恩恵の一つだと思います。
私自身、先達のさまざまな影響を受けています。「この仕事の仕方や技術はあの上司から学んだ」「この考え方はあの管理職から受けた薫陶だ」と思うと、ちょっと懐かしくなります。私の仕事の幾つかの要素は、あたかも遺伝子のように、先人、特に自分の仕えた上司や管理職から得た経験で成り立っている気がします。
もちろん「反面教師」に仕えることもあります。上司の動きや発言を自分として納得がいかないと思ったら、それもまた上司から得た教訓です。将来その上司のようにならないよう、そっと心掛ければいいのです。これから部下を持つ身としては、先達から得た良い要素だけをもらい、悪かったり、欲しくなかったりすれば容赦なく捨てる姿勢が大切。なぜか悪い影響ばかり熱心に受け、自分のものにしてしまうリーダーをたまに見掛けますが、それもその人の器量なのでしょう。
周囲の評判があまり芳しくない上司や管理職でも、仕えてみるととても良い所があるのに気付きます。部内の調整がうまい、性格が温厚で明るい、友人が多いなど、優れた要素を見つけ出して学ぶのも組織人ならではの経験です。受け継ぐも捨てるも、人の器のなせる業。明るく士気を上げる職場づくりに向け、上司、先輩の優れた「仕事遺伝子」を引き継ぎ、後進に伝えましょう。それが自らのリーダー就任に向け、静かに培う「育ちのワザ」、そして度量だと思います。
▽自分の頭で考える
幹部になると、改めて考えることがあります。自分はなぜ公務員の道を選んだのか、幹部としてこれから何をしていきたいか。決定権限が増えるのですから、時折ちょっと立ち止まり、自身の今後の在り方を組織や周囲との関係で見つめ直すことが大事です。
もはや「担当さん」ではない、幹部にふさわしいあなたの動き方、仕事の仕方があるはずです。より効果的な住民への奉仕のため、どう考え、どんな道筋で政策、事業を進めようかと、自分の思いや計画を懐に忍ばせておきましょう。
役所では互いが異動して職場が変わり、上司や同僚と過ごす期間は案外短いですから、彼らの言葉を参考にしても、惑わされる必要はありません。他者の意向に流されず縛られず、幹部として真にやりたいことをいつも念頭に置き、自分を信用して仕事を進めるべきです。その過程では、仕事に没頭して猛進するより、仕事以外に好奇心を高めることが大事だと思います。幹部としての「幅」「間尺」をつくるのです。疑似体験のつもりで広く多くの知識や情報を積極的に得るよう努めれば、施策の中身が肉付けされ、深く豊かになります。
▽自分の欲求には素直に
幹部として「したい」「してみたい」と思うことがあっても日々の業務に追われて「どうせできない」「できなくても仕方がない、それで問題も起きていない」と考えるようになると、いつしか挑戦したいことがあなたの脳裏から消え、積極的な気持ちが薄れてきます。そして眼前の仕事に流されます。ただ、日ごろから考えていないことは、すぐには行動に移せません。チャンスの到来に気付かず、逃してしまう場合もあります。さらに、実行には部下の理解と協力が必要です。やりたいことへのあなたの思いを、部下に共鳴、共振してもらえるように語ってみる。思いが皆で共有できたらいいですね。
逆に、部下が「こんなことをしてみたいのですが…」と提案してきたら、あなたは「そんなこと無理だ」「いま係が皆、手一杯だからできない」などと言うべきではありません。現状を変えようとする部下の発想は重要です。あなたはそのアイデアを「査定」するのではなく、事業化できるよう「一緒に考える」のです。
若手の発想は奇抜で、年寄りの考えよりはるかに面白い。少々突飛だと思っても、皆で少し改良したり視点を変えたりすれば、現状を打破する会心の一手や、地域に向けた目玉事業になるかもしれません。あなたがやりたかったことの実現にもつながり、全国に例のないヒット策になるかもしれません。
部下に自由に提案してもらいましょう。「まずやってみる」という前提で部下の話を聞き、できるだけ形にしていくのがあなたの役目。職場の空気が変わりますよ。(了)
- ◇山梨秀樹(やまなし・ひでき)氏のプロフィル
- 1983年静岡県庁に入り、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室、藤枝市行財政改革担当理事、同市副市長、静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)などを経て、2019年4月から藤枝市理事。同年6月、人財育成センター長に就任。人財育成に関する論文、寄稿などを発表するほか、公務員の「言葉力」をテーマにした研修・講演の講師などを務める。