2023/令和5年
104日 (

インタビュー 【トップインタビュー】未来志向でしっかり投資=倉成淳・岩手県奥州市長 2023/05/31 08:30

倉成淳・岩手県奥州市長

 岩手県の県南部に位置する奥州市。就任して1年が経過した倉成淳市長(くらなり・じゅん=66)は、財政健全化を図りつつ、未来志向型の2023年度当初予算を打ち出した。「投資すべきところにはしっかり投資する考え方でないと、逆に将来お金が掛かってしまう」と話し、地域医療やまちづくり、教育分野などに力を入れる。

 具体的には、遠隔診療ができるモバイルクリニックや小学生から高校生までの医療費無償化、民間企業と連携したカヌー場がある胆沢ダム周辺の活用計画策定や大会誘致などを予算に盛り込んだ。

 予算編成と同時に実施したのが、庁内の組織改編だ。従来の「総務企画部」を、守りを担う「総務部」と攻めを担う「政策企画部」に分割。未来投資型の事業を遂行できる組織が必要とし、政策企画部の中に「未来羅針盤課」を設置した。「将来のことをやろうとすると、縦割りの部門だと難しい。今のまちづくりは、ハードとソフトが一緒にならないとできない」とした上で、同課について「複数の部署が絡むプロジェクトを束ねる役割。予算を遂行する部署と密接に関係していく」と説明する。

 将来を見据えた方向性としては、06年の合併以前の旧市町村の地域特性を生かしたまちづくりを掲げる。水沢や江刺の市街地整備や、過疎が進む衣川の医療体制確保策、前沢のコンパクトシティ、胆沢の自然環境を生かした観光開発などを念頭に進め、「住んでいる人が住み続けたいと思い、外からはこの市だったら行ってみたいと思うような場所にならないと、市としての持続性がない」と訴える。

 大きなテーマの一つが地域医療や公共交通網の確保だ。市は昨年1年間を通して、市内五つの市立医療施設や県立病院のクラウドネットワーク化などを目指す「地域医療奥州市モデル」構想を打ち出し、医師不足や産前産後のサポート、医療と介護の包括ケアなどに対応できる仕組み作りに取り組んだ。加えて、公共交通網の整備を進める考えを示す。水沢地域で建て替える新医療センターへのアクセス向上や高齢者のフレイル防止、観光開発などにつなげる狙い。今後は、住民の共助で運用する交通システムを取り入れる考えだ。

 市内では企業立地が進む。現在江刺地域で整備が進む工業団地は、半導体関連業者を中心に、発売と同時にほぼ完売。今後約2200人の雇用が創出され、市には350億円余りの投資が見込まれている。これに伴い、住環境の整備にも動く。医療、教育、自然環境がそろった、若者や子育て世代のニーズに応えられる市であることを訴えていきたいとする。倉成市長は、「各地域の特性を生かし魅力あるまちづくりによって、人が集まる仕組みを作らなければ」と語る。

 〔横顔〕民間企業を経て22年に初当選。趣味はカヤック。自身のカヤックを所有しており、年に数回、市内の湖で楽しむという。

 〔市の自慢〕「人と歴史」。東北独特の強みがある。市出身の大谷翔平選手についても「プレーもすごいが、彼はプレー以外でも人間味あふれる振る舞いがある」と語る。

(了)

(2023年5月31日iJAMP配信)

同一カテゴリー記事