2023/令和5年
104日 (

コラム 【地方議会めぐる新潮流4】議員のなり手不足(上) 2023/07/06 00:00

甲府市議会議員 神山玄太氏

甲府市議会議員 神山玄太

 4月9日に前半戦(道府県・政令指定都市)、同23日に後半戦(一般市・区町村)の日程で統一地方選挙がありました。

 統一地方選は、投票日を全国で同じにすることで▽国民の選挙に対する関心を高められる▽選挙が円滑に効率的にできる▽経費抑制につながる――などの理由から1947年に始まりました。4年ごとに「地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律」という特別法を国会で定め、それを根拠にしています。今年が20回目で、この間に首長の辞任や議会の解散、市町村合併などで選挙日程がずれたため、今回の統一率は27.54%でした。

▽選挙による違い

 今年の統一地方選では「地方議員のなり手不足」が注目されました。実際にどうだったのか、選挙結果を見たいと思います。

表 第20回統一地方選の結果(筆者作成)

 この表から分かるのは、道府県議会議員選と町村議会議員選の無投票率が高く、市議会議員選と特別区議会議員選では無投票率が低い(特別区は無投票選挙区はなし)点です。地方議員のなり手不足と言ってもどの選挙かによって違いがあるようです。

 確かに、私の住む山梨の状況を見てみると、甲府市議選は定数32に対して42人が立候補し、大激戦となりました。一方、県議選甲府市選挙区(定数9)は戦後初めて無投票となりました。山梨県議選は16の選挙区ですが、半数の8選挙区で無投票、定数37のうち23人が無投票当選し、その率は62.2%にもなりました。

▽要因は報酬?

 第33次地方制度調査会は、22年12月28日に出した「多様な人材が参画し住民に開かれた地方議会の実現に向けた対応方策に関する答申」で、議会が性別や年齢構成の面で多様性を欠いていることは、住民の議会に対する関心を低下させ、住民から見た議会の魅力を失わせていると分析。それが、議員のなり手不足の原因の一つにもなっている面があるとしています。加えて、小規模団体では議員報酬が低水準であることが議員のなり手不足の要因になっているという指摘に言及しています。

 総務省の「地方公共団体の議会の議員及び長の所属党派別人員調」(21年12月31日現在)によると、議会での女性の割合は、都道府県議会11.8%、市区議会17.5%、町村議会11.7%ですから、大きく偏りがあることが分かります。報酬は、町村議の平均報酬月額は約21万円(19年3月の町村議会議員の議員報酬等のあり方検討委員会)であり、しかもこれは額面ですから、ここから税金や国民健康保険料、国民年金などの支払いもあり、手取りだともっと少なくなります。

 このことから、第33次地制調が指摘する点が議員のなり手不足の要因になっているのもうなずけます。しかし、平均報酬月額が約78万円(20年4月1日の地方公務員給与実態調査結果より計算)の都道府県議でも無投票が多く、議会の多様性や報酬の低さだけが地方議員のなり手不足の要因ではなさそうです。

▽多くの不安要素

 なり手不足問題は、議会活動の分かりにくさ、選挙制度、市民と地方議会の近さ、プライベートがない生活を受け入れられるか、政策過程に関わるという専門性への不安、家族の理解が得られない、など私は多くの要因を挙げられると思います。

 私自身、これらの不安要素をすべてクリアできているかは分かりませんが、現職であってもこれらの壁にぶつかるときがあり、そういう時は議員活動の継続に不安を感じることは多くあります。だとすれば、これから選挙に出ようと思う方が、ちゅうちょしてしまう気持ちは理解できます。

 この4月の統一地方選の結果から、地方議員のなり手不足について考えてみました。道府県議選や町村議選は無投票が目立つ一方、市区議選はほとんど選挙になっています。次回のコラムで、この点についてより深掘りして考察し、地方議員のなり手不足という課題を現職議員がどのように捉えているかお伝えするつもりです。(了)

◇神山玄太(かみやま・げんた)氏のプロフィル
1982年甲府市生まれ。金沢大学法学部を卒業し、早稲田大学大学院公共経営研究科を修了。日本インターネット新聞社で記者として勤務後、11年に甲府市議初当選。同年第6回マニフェスト大賞でグッド・マニフェスト優秀賞を受ける。12年に早稲田大学パブリックサービス研究所招聘研究員に就任。17年9月から1年間「関東若手市議会議員の会」会長。山梨英和大学で非常勤講師を務めた経験も。「ワイン県」山梨で活動する議員として21年にワインエキスパート資格も取得。23年4月から法政大学大学院公共政策研究科博士後期課程に在籍、5月から4期目の甲府市議。

【地方議会めぐる新潮流】

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