インタビュー 【トップインタビュー】富士山の大自然を次世代へ=堀内茂・山梨県富士吉田市長 2023/06/07 08:30

6月22日に世界文化遺産登録10周年を迎える富士山。そのお膝元である富士吉田市で2007年に初当選し、現在5期目の堀内茂市長(ほりうち・しげる=74)は「恵まれた富士山の大自然を、形を変えず子どもたちの世代へと伝えていきたい」と話す。周辺地域を盛り上げながらも、自然や文化を守る取り組みを今後も続けていく考えだ。
富士山は当初、自然遺産の登録を目指していたが、ごみやし尿の処理問題や、開発が進んでいるなどの理由で、候補地への推薦が見送られた。その後、故中曽根康弘元首相らが中心となり、信仰の対象や数多くの絵画や文学の題材となった「芸術の源泉」として、文化遺産の登録に向けた運動がスタート。かつて富士山がどちらのものかを巡り「県境論争」を繰り広げるなど「真っ二つ」だった山梨、静岡両県が綿密に連携を取り活動することで、13年、晴れて登録された。「周辺地域が一つになれた」と当時を振り返る。
今年は、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが「5類」に引き下げられてから初めての山開きを迎える。水際対策の緩和や文化遺産登録10周年であることも相まって、山小屋には予約が殺到。満室も相次いでおり、山小屋関係者らは、山小屋を利用できず、徹夜で山頂を目指す「弾丸登山」の増加を懸念する。「『弾丸登山』は事故や高山病を引き起こす」として、市は県に有料道路「富士スバルライン」の営業時間短縮を要望し、実現させた。
また、体調不良者の増加も想定し、例年8月下旬で閉じていた8合目の救護所の営業期間を閉山予定の9月10日まで延長する方針だ。さらに、登山者の増加により、自然環境の悪化をもたらす可能性もあり、「富士山に負荷を掛けないように」と14年に導入した任意の協力金(1000円)の引き上げの必要性も感じている。
もちろん、富士山の盛り上げも忘れていない。山梨県側の吉田口登山道は四つある登山道のうち、麓から山頂を目指せる唯一の道。1964年に「富士スバルライン」が開通して以来、5合目からの登山が主流になり神社や山小屋の荒廃が進んでいるが、かつては「富士講」の巡礼が盛んに行われていた。市は今年度から「昔の姿を再現して、登山客に信仰の歴史を知ってもらおう」と、所有者への聞き取りなど建物の調査を開始する。2年かけて整備計画を策定する予定で、「『西の熊野古道、東の富士古道』と呼ばれることを目指したい」と意気込んだ。
〔横顔〕動物が大好きで、犬やキュウカンチョウを飼っている。
〔市の自慢〕富士山と職員の力。アイデアを実現させる実行力がある。
(了)
(2023年6月7日iJAMP配信)