コラム 【職場が輝く知恵とワザ5】カッコいい上司とは? 2023/07/28 13:00

静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹
あなたの周りに「いいなあ」「見習いたい」と感じる上司や先輩がいるでしょう。自分が進んだ道を究めた職業人気質、自分が選んだ道を全うする先達の立ち姿は、後進の目にも格好よく映ります。「あの先輩のようになりたい」「あの幹部の下で働きたい」など、理想とする「人財」のモデルが組織に実在すれば、目指す存在、なりたい自分の立ち姿、目標は明瞭です。こうした素直なあこがれや志向は早くから持つ方がいいですし、その願いが生かせるように、職場や組織が職員一人一人に的確に寄り添って支援することは、役所の経営上とても大事だと思います。
▽「面白い」は最強の武器
「カッコいい」タイプもいろいろです。例えば「あの人は面白い。ユーモアがある」というのは最大の魅力の一つで、最強の武器でしょう。スポーツができて知識も豊富、真面目で美貌、風采も整っている人であっても、話がつまらない、雰囲気が暗い、会話して楽しくないというのでは人気者になりません。私はテレビや公開動画などを見て笑いが止まらない時は「なぜこんなに面白いんだろう?」と思い、何回も再生しツボを探してしまいます。間合いやテンポ、滑舌と歯切れの良さ、イントネーションなど幾つかの要素があると思いますが、笑いは自分や社会を鳥瞰(ちょうかん)し、人物を冷静に分析した時に生まれる、知性と客観の産物であることが分かります。
何かに没入して悩み、自身を俯瞰(ふかん)することを忘れると、笑いが消えてしまいます。表情は硬く、眉間にしわが寄っていますね。あまりお薦めできない顔です。問題を冷静に突き放し、没入による自失から抜け出しましょう。すると事案の持つ別の側面や矛盾、さらには不条理の滑稽さまでが見え、いつの間にか笑っている自分の変化に気付きます。問題を鳥瞰し「それ、おかしくない? そこを変えれば?」と冷静な頭で考えると、絡んだ糸もあなたの顔もほぐれ、解決の突破口が見えてきます。
▽完璧なリーダーはつまらない
調整能力や交渉力が高い、責任感があって決断が早い、部下への配慮がある、身だしなみもいい――などはいずれもリーダーとして重要な要素です。しかし、いつも完璧に見える管理職が格好いいかというと、実はあまり好かれません。意外な欠点や抜けた部分があり、部下が支えないと頼りない一面を見せられる方が、特に若手には魅力があるようです。
仕事が抜群にできて役所内外の調整もうまく、市民にも人気があり議会答弁も完璧にこなす幹部が、時折落とし物や忘れ物をし、出張先ではよく道に迷う。大事な局面で堂々たるリーダーシップで前面に立ち、部下への配慮も欠かさないなど、職場の信頼が厚ければ、多少の難点やミスなどはむしろご愛嬌(あいきょう)になります。部下が適時に幹部を支えます。完全無欠とは言えないリーダーに、部下は引かれます。「サポートしてあげなくては」という気持ちに部下がなるような管理職に、人としての魅力を感じます。幹部は部下に向かって背伸びをせず、肩の力を抜いていつも笑顔で接しましょう。そして問題解決に向けた大切なときに、部下の眼前で臆したり逃げたりしないこと。それが「カッコいい」上司だと私は思います。
▽「善人」を装う
職位の高い幹部だからというのではなく、自分自身の価値を周囲から認められ、一定の信頼を得るためには何が必要でしょうか?
近道の一つは、楽しく周囲と話し、周囲の言葉をよく聞くことです。「係長と同席するのが楽しい」「困った時に主幹は相談しやすい」と思わせるような気配りで、雰囲気づくりの工夫をするのです。これは日頃から意識して行動を続けるしかないと思います。コミュニケーションが上手な幹部とは、ぺらぺら話せるのではなく、職位にこだわらず相手の立場に立ち、その場の状況把握が的確にできる人のことです。
そしてもう一つ。人柄がいいなあと思わせる所作、つまり「善人」を装って行動できることです。善人の役は演じてもなかなか自分のものにならず、時には一気に地金が出てしまい挫折を繰り返しますが、意識して毎日続けていくと、演じていたはずの善人に自分が少しずつ近づいていくのが分かります。継続の力です。
部下に時折、明るく声を掛ける。部下の相談や協議の中身は最後まで聞く。部下が困っているときには前面に出て動く。そしてできるだけ笑顔をつくる。このような善人の演技を続けるうちに、いつしか本物になっていく。偽善から「真善」へ。時間をかければ案外、少しはできるのではないでしょうか。 硬い言葉なら「技術力より人間力を磨く」なのかもしれませんが、大層なことではありません。意識してまずは演技に取り組んでみましょう。部下の反応も職場の雰囲気も、大きく変わると思います。(了)
- ◇山梨秀樹(やまなし・ひでき)氏のプロフィル
- 1983年静岡県庁に入り、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室、藤枝市行財政改革担当理事、同市副市長、静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)などを経て、2019年4月から藤枝市理事。同年6月、人財育成センター長に就任。人財育成に関する論文、寄稿などを発表するほか、公務員の「言葉力」をテーマにした研修・講演の講師などを務める。