コラム 【地方議会めぐる新潮流5】議員のなり手不足(下) 2023/08/09 15:00

甲府市議会議員 神山玄太
前回のコラムで4月の統一地方選挙での議員のなり手不足の状況をお伝えしました。無投票率は、道府県議会議員選と町村議会議員選で高く、市議会議員選と特別区議会議員選では低い(特別区は無投票選挙区なし)実態を明らかにして「地方議員のなり手不足」と言って選挙の種別によって違いがあることが分かりました。
▽さまざまな不安要素
議員のなり手不足を考えたときに、議員以外にやりたい仕事があり、その仕事に就いている人はそもそも議員になろうとは思わないわけで、議員をやってみたいと思っている人、誰かに議員になることを推された人が「議員になる道」を選択することになります。そう考えると、議員のなり手不足は、まず「議員になる道」を選択する人自体が少ないからではないかと感じています。
「議員になる道」を選択した人であっても、いざ選挙に出ようかと決断する時にさまざまな壁が目の前に現れてきます。そして、その壁を乗り越えられて初めて立候補することができます。
選挙に出るに当たって目の前に現れる壁はさまざまです。議員にはなってみたいけど議会活動が分からない、選挙制度をそもそも知らない、プライベートがない生活を受け入れられない、政策過程に関わるという専門性への不安、家族の理解が得られない、など個々人によってどの点が大きな壁になるかの違いはあります。以下のようなケースが考えられます。
医師や弁護士などになろうと思ったら医学部に入ったり、国家資格を取ったりしなければならないことが壁として立ちふさがってきます。しかし、その壁を乗り越える方法は分かります。一方で「議員になる道」を選んだ人の前に現れてくる壁は、自分の頑張りだけで乗り越えられるのか、周りの理解があれば乗り越えられるのかといったように、答えが見いだしにくいのです。「議員になる道」を選んだ人でさえ、さまざまな不安要素が複合的に関わり合った結果、立候補を躊躇する場合があります。そこに、なり手不足の大きな要因があるのだと思います。
▽問題は議員だけ?
議員のなり手不足は、マスコミが大きく取り上げるおかげで、多くの皆さんに課題として捉えていただけていると思います。課題になることで問題意識が芽生え、なり手不足解消に向けて立候補者が増えたり、社会がなり手不足を引き起こしている要因をなくそうと動き始めたりするなど、さまざまな動きが起きていくことが想像できます。
しかし「なり手不足」は議員だけの問題なのでしょうか。
介護、保育、教育、物流、医療、建設、土木、農業、法曹、官僚…。ネット検索で「なり手不足」のワードの前に、さまざまな業界の名前を入力すると、ほとんど深刻な問題として表示されます。結局、日本は人口減少を背景に、どの業界でも同じ状況が慢性化しており、実は議員だけではないのだと気付かされます。
ほとんどの業界で問題になっているとすると、議員だけで解消するのは難しいでしょう。日本の人口減少と結びついて、ますます解決できない課題となっていってしまっていそうです。
人口減少やさまざまな業界のなり手不足に対策を講じるのが政治の役割です。これを議員だけの問題と捉えずに、広い視野で、働き手不足の課題解決に向けて取り組みを進めていかなくてはならないでしょう。
4月の統一地方選を踏まえ、今回まで2回にわたり、議員のなり手不足を考えてみました。議員だけでなく、さまざまな業界で生じていると気付かされました。議員のなり手不足解消のためだからといって、業界間で人材の取り合いをするのではなく、日本全体の課題として政治が頑張らなくてはいけない時だと改めて思いました。(了)
- ◇神山玄太(かみやま・げんた)氏のプロフィル
- 1982年甲府市生まれ。金沢大学法学部を卒業し、早稲田大学大学院公共経営研究科を修了。日本インターネット新聞社で記者として勤務後、11年に甲府市議初当選。同年第6回マニフェスト大賞でグッド・マニフェスト優秀賞を受ける。12年に早稲田大学パブリックサービス研究所招聘研究員に就任。17年9月から1年間「関東若手市議会議員の会」会長。山梨英和大学で非常勤講師を務めた経験も。「ワイン県」山梨で活動する議員として21年にワインエキスパート資格も取得。23年4月から法政大学大学院公共政策研究科博士後期課程に在籍、5月から4期目の甲府市議。