コラム 【シティプロモーション再考5】首長、議会の関心状況 2023/08/25 10:40

関東学院大学法学部教授・社会構想大学院大学特任教授 牧瀬稔
今回はシティプロモーションに関する首長の取組み姿勢を説明します。シティプロモーションに限りませんが、首長の方針により、政策の強弱(そして無関心)が決まってきます。
また、議会がシティプロモーションをどのように捉えているかも説明します。
▽シティプロモーションに関する施政方針
施政方針(所信表明)とは、「基本的には1年間の首長が行政運営に対する基本的な考え方や予算案、主要な政策をについて言及したもの」と定義できます。施政方針に明記された内容は、首長が強い関心を持っている行政分野です。なお、地方自治体によっては、首長の年度毎の方針を示すのが「施政方針」とし、当選した首長が任期中(4年間)の方針を提示したのが「所信表明」と分けているケースも見られます。
アンケート調査では「首長による所信表明や施政方針においてシティプロモーションに関して言及されたことがある」という設問を用意しました。この設問の結果は図表1のとおりです。

首長の所信表明や施政方針等においては54.3%の自治体で、シティプロモーションが取り上げられていることが分かりました。54.3%の数字の意味は、読者(立場)により異なると思います。筆者は「多い」と捉えています。半数の自治体がシティプロモーションを積極的に取組もうとする意思があるということです。まさにシティプロモーションは、レッドオーシャンの状態にあると指摘できます。
シティプロモーションの政策目標の多くは定住人口や交流人口の獲得です。近年では関係人口の言及も増えています。実際、施政方針においても、「定住人口を増やすためにシティプロモーションを実施する」という趣旨の発言が見られます。注意してほしいのは、定住人口の獲得はシティプロモーション「だけ」ではありません。シティプロモーション以外にも、定住人口を増やすための多くの手段があります。
ところが、昨今の実状を確認すると、定住人口や交流人口を増やすには、シティプロモーションが特効薬と捉えているケースがあります。確かに、自治体によってはシティプロモーションが特効薬かもしれません。しかしながら、自治体によっては、シティプロモーションは、定住人口(交流人口等)を増加するための処方箋かもしれませんし、まったく効果がない場合もあります。重要なことは「定住人口(交流人口等)を増やすためにシティプロモーションが最適なのか」という政策研究をしっかり実施することです。
確かな政策研究をしていない状態でのシティプロモーションは失敗に終わります。このことはシティプロモーションに限らず、政策全般に指摘できることです。
▽シティプロモーションに関する議会質問
議会がシティプロモーションに関して、どのように捉えているのでしょうか。アンケート調査では「過去3年間においてシティプロモーションに関する議会質問・答弁等が行われているか」を尋ねています。回答結果は図表2のとおりです。

シティプロモーションが議会質問、答弁にて取り上げられた自治体は、過去3年間で61.0%となっています。議会のシティプロモーションへの関心の高さが理解できます。
図表1と図表2のデータを活用して分析した結果、首長の施政方針等と議会での質問等は、正の相関関係が把握できます。
すべての自治体の回答を調べたわけではありませんが、筆者は首長の施政方針等が「先」であり、議会からの質問等が「後」という傾向を見出しています。首長が何も言わずにシティプロモーションをしれっと実施してしまえば、議会からの質問等が減少するかもしれません。すなわち、首長がシティプロモーションを取り上げると、議会も反応することが言えます(シティプロモーションに限らず、すべての政策に言えるかもしれませんが、他の政策に関してはデータを持ち合わせていないので何とも言えません)。
本連載第3回で言及しましたが、シティプロモーションに関する行政計画や指針等の策定状況は36.9%です。首長は施政方針等で言及し、議会は質問等を実施しているのにも関わらず、「行政計画化」(指針を含む)まで動く自治体は少ない現状があります。
私見になりますが、シティプロモーションの行政計画化をしていないため成果が上がらないと言えるかもしれません。あるいは行政計画の有無により、自治体のシティプロモーションに対する本気度が見出せるとも言えそうです。
▽首長の「シティプロモーション」に関する発信状況
今回は最後に、首長の「シティプロモーション」に関する発信状況を確認します。アンケート調査は「首長等による対外的なシティプロモーションに関する講話、インタビュー等が公開されたことがあるか」という設問があります。回答結果は図表3のとおりであり、23.5%となっています。

本日紹介したアンケート結果の図表1と図表3から理解できることは、首長は施政方針等ではシティプロモーションを言及しています。一方で、首長は対外的にはシティプロモーションの取組みを発信していません。
これらの結果から、いくつか推測することができます。首長は施政方針等ではシティプロモーションを言及しているが、大した取組み事例がないため、対外的に発表(発信)できないのかもしれません。ここから読み取れるのは、「シティプロモーションは周りの自治体が取組んでいるから施政方針等に入れたけど(住民ウケするから施政方針等に入れたけど)、内容は他自治体と大差がないため、対外的にはアピールできない」と考えているかもしれません。
また、シティプロモーションは、まさに「プロモーション」ですから、積極的に発信していく必要があります。ところが図表3のとおり、発信していない自治体が多くあります。シティプロモーションなのに発信できていないということも言えます(プロモーション能力が欠如しているとも指摘できそうです)。
今回、紹介した各結果(各図表)から読者はどのように考えるでしょうか。(了)
- ◇牧瀬稔(まきせ・みのる)氏のプロフィル
- 法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。博士(人間福祉)。民間企業や神奈川県横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室、財団法人地域開発研究所研究部などでの勤務を経て17年から関東学院大学法学部准教授、23年4月に同教授。19年から社会情報大学院大学(現社会構想大学院大学)特任教授。公的活動としては、東京都新宿区や岩手県北上市、栃木県日光市、愛媛県西条市など多くの自治体でアドバイザーをしている。