インタビュー 【トップインタビュー】農水産業ベースに「宇宙」へ飛躍=黒川豊・北海道大樹町長 2023/09/01 08:30

小型観測ロケットの打ち上げに成功したベンチャー企業「インターステラテクノロジズ」(IST)や発射場がある北海道大樹町。黒川豊町長(くろかわ・ゆたか=62)は「農業、水産業の第1次産業をベースにして、宇宙基地へ発展したい」と力を込める。広大な平地と太平洋に面した地の利を生かし、宇宙産業の集積やスマート農業・漁業への応用を期待する。
町の人口は約5400人。10年前の計画では5200人に減ると想定していたが、減少に一定の歯止めがかかっている。IST社員の転入や大手乳業メーカーの設備増強が寄与している。移り住んできた町民は「町づくりに興味を持ち、いろいろな意見を言ってくれるため、刺激があり、プラスになっている」と語る。
人工衛星への需要が伸びており、運搬手段となる小型ロケットへのニーズも高い。町では現在、衛星運搬用ロケットの発射場の建設や1000メートルある滑走路の延伸工事を進めている。ただ、短期的な町の利益には必ずしも結び付かない宇宙産業に肩入れする町の姿勢を快く思わない町民も少なくない。
今年4月の町長選では、3期目を目指す現職と黒川副町長(当時)による異例の一騎打ちとなった。地元では前町長と町民・職員のコミュニケーション不足がささやかれていた。黒川氏は「町に閉塞(へいそく)感があった。(前町長と)一緒にやっていたので、一定の責任は感じている」としながらも、町民有志からの要請を重く受け止めて出馬した。
道内では「宇宙の町」と一目置かれるものの、黒川氏は「まだまだ不十分。暮らしも魅力的にしなければならない。鹿追、上士幌、士幌など十勝の他町は元気がよい」と環境政策や農業でリードする近隣自治体がまぶしく映る。「農業、水産業をしっかりしないと大樹町は成り立たない。宇宙技術を生かし、効率が良く、生産性が高い農水産業にしたい」と話す。町内で宇宙関連産業が集積し、ロケットが相次いで発射されるようになれば、見学に訪れる人も増え、「『宇宙版シリコンバレー』になる」と夢を描く。
〔横顔〕企画課長、企画商工課長、副町長を経て2023年5月に町長就任。町営の「晩成温泉」に漬かることがマイブーム。英国のロックバンド「レッド・ツェッペリン」のファンだが、「部屋でガンガン流しながら眠っている」ことも多いとか。
〔町の自慢〕「(24年に国立公園になる)日高山脈の分水嶺(れい)から太平洋までつながっている」。カヌーや渓流釣り、キャンプなどアウトドアには事欠かない。
(了)
(2023年9月1日iJAMP配信)