インタビュー 【トップインタビュー】島の未来危ぶむ「残業80時間」=新垣利治・沖縄県南大東村長 2023/09/11 08:30

沖縄本島の東360キロの絶海の孤島、沖縄県南大東村。サトウキビ生産を巡り、いわゆる「2024年問題」が新垣利治村長(あらかき・としはる=59)の頭を悩ませている。働き方改革関連法に基づく時間外労働の上限規制を猶予する期間が来年3月末で切れ、冬場のみ短期集中で稼働する製糖工場は勤務体制の転換を迫られているが、打開策は見いだせていないためだ。若者の島離れにつながりかねず、「離島の人材確保に思いをいたしてほしい」と懸念を強める。
製糖業は、島の経済を一本足で支える。繁忙期は12~3月。工場は毎日1000トンを処理しなければならない特性上、24時間フル稼働する。工場勤務は現在12時間ごとの2交代制。「島の若者が魅力的な勤務体系を好んで就職するほか、北海道からも季節工員が集う」。短期間で一気に稼げる点が人気だが、それでも人手不足だ。
19年施行の関連法の規制で問題となるのは、「連続する2カ月から6カ月の間における1カ月の平均を80時間以内」と定める時間外労働の上限。トラック運転手や医師などと並び、適用が5年間猶予されていた。
24年4月からは3交代制に転換しなければならない。「(80時間に)制限されると、短期間で収入を上げづらくなり、応募が来なくなる。働きたい人も働けなくなる」と切実で、特例としての緩和措置を国に求めている。
しかし、同様の適用猶予を受ける鹿児島県の同業者からはこうした声が上がっておらず、見通しは厳しいという。同県喜界島(喜界町)の人口は約6500人だが、南大東村の人口は約1200人。「うちは小規模人口である一方、基幹産業として生産量は年間10万トンと多い」と強調し、近く予定される厚生労働省のヒアリングには「島に合った政策」を要望する考えだ。
「若者が辞めて島を出て行かないか、非常に心配だ」。訴える背景には、合計特殊出生率が2.30(13~17年度)と全国でも5位と高い一方、人口流出に歯止めがかからない状況がある。島には高校がなく、進学のため親元を離れる「15の春」が一般的だ。
Uターンへのハードルは住宅難という。「15歳に定住の条件を聞くと、『きれいな家があれば』との回答が多い。住環境がカギだ」。建築資材は高く、生コンクリートの価格は那覇市の4倍にも上る。「個人宅の建設は事実上不可能」といい、村でコンテナ住宅の購入や空き家の調整を進めている。
〔横顔〕89年役場に入り、昨年7月初当選。「趣味は仕事」と、休日も村長室に。
〔村の自慢〕東京・八丈島から開拓民が入り123年と「浅い歴史」。沖縄からの労働者と融合した「チャンプルー文化」による「来る者拒まずの島民性」。
(了)
(2023年9月11日iJAMP配信)