2023/令和5年
1130日 (

コラム 【シティプロモーション再考6】矮小化の恐れ 2023/09/20 11:00

関東学院大学法学部教授・社会構想大学院大学特任教授 牧瀬稔氏

関東学院大学法学部教授・社会構想大学院大学特任教授 牧瀬稔

 今回は、シティプロモーションを推進するに当たり、具体的な事業に関するアンケート結果に言及します。取り上げる紙業は広報動画(プロモーション動画)です。

 広報動画を用意して活用することが、結果として「シティプロモーションの矮小化」を招いてしまう危険性を指摘します。

▽自治体広報動画(プロモーション動画)の状況

図表1 自治体広報動画を作成している

 地方自治体の魅力を伝える広報動画(プロモーション動画)の現状を尋ねています。アンケート結果は図表1のとおり、82.1%の自治体が「広報動画を用意している」でした。筆者の感想は「かなり多くの自治体がプロモーション動画を持っている」です。 図表1のあるように「82.1%の自治体がプロモーション動画を用意している」という状況は、せっかく使った動画は多くのプロモーション動画の中で埋もれてしまいます。製作した動画は「その他多数」となり、誰も見てくれない状況と予測できます。

 なお、一部の動画がバズる(注目を集める)ことがあります。かなり前になりますが、筆者はバズった動画と、定住人口・交流人口の相関関係を調査しました。その結果、相関関係はまったくありませんでした。すなわち、バズっただけでは動画の効果は乏しいと言えます。バズることが大事ではなく、想定しているターゲット層に「刺さる」動画を用意する必要があります。刺さるとは「訴求効果がある」という意味です。

 続いて、アンケート調査は「自治体広報動画の状況について当てはまるものをお答えください」という設問があります。この回答結果は図表2のとおりです。43.7%の自治体が広報動画の展開にあたり、専門チャンネルを有していることが明らかになりました。

▽自治体広報動画(プロモーション動画)の状況

図表2 自治体広報動画の状況について当てはまるものをお答えください

 既に本連載で指摘していますが、シティプロモーションに関わる職員は限定されます(自治体によっては職員が減少する傾向も見られます)。一方で、シティプロモーションに関する事業(仕事)は多様化しています。その結果、職員一人当たりの負担が大きくなっていることが想像できます。

 さらに言うと、シティプロモーションに係る予算も限られています。そのような状況下で、シティプロモーションの事業が増えることは、一事業にかける予算が少なくなることを意味します。一事業あたりの予算が減れば、得られる成果が逓減する可能性もあります。

 シティプロモーションの事業を限定する時期に来ていると言えます。

▽シティプロモーションの3点セット

 シティプロモーションを進める際に、自治体は「3点セット」を用意する傾向が強くあります。その一つが「①広報動画(プロモーション動画)」です。その他に「②ロゴマーク」と「③ブランドメッセージ」もあります(以前は「④ゆるキャラ」を入れて4点セットと称されることもありました。ただし近年、ゆるキャラブームは停滞しつつあります)。

 3点セットを簡単に説明します。まずは広報動画(プロモーション動画)です。プロモーション動画に関して、民間企業の定義は「消費者に商品やサービスを購入してもらうことを目的とし、その目的を達成するための宣伝活動や販売促進の動画」と言えます。 新聞や雑誌等を活用し「文字」だけで、商品やサービスをターゲット層に伝えるのは限界があります。そこで、売りたい商品やサービス価値を「動画」で伝えた方が消費者にダイレクトに伝わります。まさに「百聞は一見にしかず」に近い状態が動画により実現できます。

 しばしば動画で伝えられる情報量は、文字の数百倍とも言われています。そこに動画の価値があります。

 図表1で示したように、今日、自治体は広報動画(プロモーション動画)を用意する傾向が強まっています。しかし、既に言及したように、現状は「百花繚乱」と言えます。よく観察すると、百花繚乱ではなく「玉石混交」と指摘した方が正しいかもしれません。

 次にロゴマークです。ロゴマークとは「自治体のイメージを印象付けられるように図案化したもの」と定義できます。ちなみに、ロゴはロゴタイプ(logotype)の略称です。ロゴタイプは「図案化・装飾化された文字・文字列」を意味します。自治体によっては、ロゴマークとは言わず、シンボルマークやブランドマークと称するケースもあります。

 最後に、ブランドメッセージを説明します。ブライドメッセージとは「自治体がターゲット層に伝えたいメッセージやキャッチフレーズ」を意味します。ブライドメッセージは、ターゲット層に刺さらなくては意味がありません。ところが、既存のブライドメッセージは、ターゲット層を想定していないため、総花的なメッセージとなり、効果がでてきません。

 自治体がシティプロモーションを始めると、広報動画、ロゴマーク、ブランドメッセージの3点セットを用意する傾向が強くあります。これらを活用してシティプロモーションを進めることは悪くはないでしょう。しかし、いくつか課題があります。

▽シティプロモーションの矮小化

 自治体は広報動画(プロモーション動画)を用意すると「それを使おう」という意識に支配されます(ロゴマークとブランドメッセージも同様です)。そして、いつからか「広報動画を使うこと」が目的化しています。さらに、費用をかけて広報動画を製作したのだから「それを使わないといけない」という思想に支配されます。

 シティプロモーションを実施して定住人口の獲得を目的としていたのに、広報動画を製作した結果、所期の目的を忘れ「ロゴマークを使うこと」が中心となります。

 広報動画目的主義に陥るのは、議会にも問題があります。それは議会(議員)から「広報動画を活用しているのか」や「何回、広報動画が見られたのか」という質問があるからです。この質問に対応するために、職員はますます一生懸命に広報動を使うことになります。

 筆者は、このような状況を「シティプロモーションの矮小化」と指摘しています。筆者はシティプロモーションの最大の利点として、自治体にイノベーション(新機軸)が生じると考えています。プロモーションという民間企業の活動が自治体に入ることにより、化学反応が起きます。その結果、自治体にイノベーションをもたらし、良い方向に大きく変えていきます。

 しかし、現状のシティプロモーションは3点セットを用意し、「使うこと」が目的化しているように感じます。シティプロモーションがとても小さな取り組みとなっています。この点は注意しないといけないでしょう。(了)

◇牧瀬稔(まきせ・みのる)氏のプロフィル
法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。博士(人間福祉)。民間企業や神奈川県横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室、財団法人地域開発研究所研究部などでの勤務を経て17年から関東学院大学法学部准教授、23年4月に同教授。19年から社会情報大学院大学(現社会構想大学院大学)特任教授。公的活動としては、東京都新宿区や岩手県北上市、栃木県日光市、愛媛県西条市など多くの自治体でアドバイザーをしている。

【シティプロモーション再考】

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