インタビュー 【トップインタビュー】「当たり前」が「魅力」に=鳴海清春・北海道福島町長 2023/09/20 08:30

北海道の南西部に位置し津軽海峡に面する福島町。陸路では行けない手付かずの大自然が残る岩部海岸を船で周遊する「岩部クルーズ」がSNSなどで話題になっている。鳴海清春町長(なるみ・きよはる=67)は「幼い頃には漁船で行った場所。当たり前と思っていたものに、すごい魅力があることに気付いた」と目を細める。
数年前まで町内の観光名所といえば、町出身の二大横綱の功績をたたえる「横綱千代の山・千代の富士記念館」と、工事に使用した重機などを展示する「青函トンネル記念館」。「1回見ると満足。リピーターが来る仕組みはなかった」。
奇岩が並ぶ海岸線と透き通る青い海を満喫できる75分のクルーズを運航するのは、町や地元有志の出資で2016年に設立した一般社団法人福島町まちづくり工房。「行政が口出しすると制約が出る。お金は出すが口は出さない」姿勢を貫き、町にUターンした若者らを中心に、19年にクルーズの本格運航にこぎつけた。しかし、20年から新型コロナウイルス禍に見舞われ、22年4月には知床沖で観光船沈没事故が発生。影響も心配したが「土日には満席。それほど引きつけるものがあったようだ」と語る。
同法人は特産品であるコンブを使ったスパイスや、水産加工業者が捨てていたイカのくちばしを活用したパスタソースなどお土産づくりにも着手。「そこまで想定していなかったが、自由な発想で商品化し自主財源を稼いでいる」。町は運営支援費として毎年約300万円を補助するが「お金に換算できないような、町のイメージアップに貢献してくれている」。
入学者の減少が続く福島商業高校は23年度、初めて全国から生徒を募集した。東京都出身3人と熊本県出身1人を含む計9人が入学。「愛着を持ってくれた人は、ここにいなくても広い意味での『地域人材』になり得る」と期待する。
町は高校生の全国募集に合わせ学生寮やゲストルーム機能を持った青少年交流センターを開設。今夏、町と包括連携協定を結ぶ都内企業の男性社員が妻と子どもを連れて約2週間ワーケーションに訪れた。「子どもは町で無償化している保育園に預けて田舎の子どもと触れ合い、家族で楽しんでもらえた」と手応え。「われわれは都会から来た人に刺激をもらい、町で癒やしを与えられれば」。交流人口の拡大を目指す。
〔横顔〕町総務課長などを経て12年の町長選に初出馬。告示直前の出馬表明で惜敗したが、15年にリベンジし初当選。浪人時代に始めた読書が今も習慣になっている。
〔町の自慢〕自然からの恵み。観光客らからの声で「良さを再認識することができた」。
(了)
(2023年9月20日iJAMP配信)