コラム 【新連載】【現場力を高める1】職場を率いる 2023/09/25 11:00

静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹
▽マネジメントって何?
職場や組織の経営・管理…。一体、どういうものだと思いますか?年齢と経験を重ね、ついにマネジメントをする立場になった。でも自分のポストに戸惑い、迷ったことはありませんか? 私は随分、戸惑いました。ポストに就くまで本格的にやったことがなかったからです。日々、迷うことばかりでした。
実際、多くの管理者、管理職が職場経営に悩んでいます。自分にできているだろうか?そもそも何をもって「管理」と言えるのか。共通ルールでもあるのか。手法は人それぞれでいいのか。新たな連載で触れていきたいと思います。
▽部下自身はどう考えるのか
課長になったら課の全てを把握して舵取りをしなければと、つい気負ってしまうことがあります。部下に事細かに指示を出さないといけないと思っていませんか。いつの間にか、自分の思いや仕事のスタイルだけを部下に押し付けているとしたら…。
何でも上意下達で、上司や組織から行動を規定されるのは部下にとっては楽ですが、部下自身の考えは減衰します。上から言われなければやらなくなり、職場は知恵と生産力の落ちた、抜け殻のようになります。現場管理の第一歩は、あるべき姿や行動を規定した義務づけより、職員に自由に考えさせ、自発的な試行錯誤からインセンティブを引き出すことから始まります。職員がいかに多くのアイデアや工夫(イノベーション)を常時産み出せるかがポイントになるのです。
アイデアの数は、多いほどいいでしょう。不確実性の時代、将来が見通せない厳しい時代には、組織がいくつアイデアを出せるかが経営成功のカギとなります。職員各自が各々の部署と仕事で、自分の頭で考えてアイデアを出していく。特に若手の斬新な発想を知るのは、実に楽しいものです。アイデアが増えればボツネタも増えますが、良いネタもたくさん生き残ります。失敗も成功も量産する。職員1人のアイデアはわずかでも、全員が思いつけばその数は膨大になります。
珠玉の名品がいくつも見つかり、提案が認められ採用されたら、職員の士気は大いに上がります。できるだけ多くの職員のアイデアを職場内で共有し、絶えず施策の形にしていけば、膨大な事業と改革が実行できる。一握りの経営陣や幹部のアイデアなど、所詮は数も中身も知れたものです。経営と改革は、組織の全員が各自の思いで進めるものだと思います。
▽号令と説教でヒトは育たない
私は、経営や管理とは、職場や組織の「空気」を周到に、丁寧に創り上げることだと思っています。
職場・組織のリーダーである管理職は、職位があるから尊敬されるのではなく、仕事への向き合い方、部下や周囲との接し方で敬われます。管理職は自分の行動で部下に見本を示す、部下に自分の仕事や所作を直接見せることが大事ではないかと思うのです。
机の前に立たせて行う説教で、部下は決して育ちません。管理職の具体的な行動が、最も説得力のある教育であり指導だと思います。時折やって見せれば、「課長、結構すごいな」、「自分もあんな風に動けるだろうか」、「将来、課長のようにやれるかなあ」と部下は思うようになります。あなたの力を、語るのでなく、部下に見せるのです。若手が管理職の立場と仕事に魅力を感じるようになります。「背中を追いかけて育つ」というのは死語ではありません。仕事を部下に任せる姿勢は必要ですが、肝心な時に、あなたが最前線から抜け出さないことが大切だと思います。
▽数値化できない経営指標がある
万事、成果目標、成果指標の数値化が求められる行政経営。でも実は、ほとんど数値化できない重要な経営要素があります。職員の気概と情熱の量です。職員の士気は数値化できないので、前年対比の上昇率も数値にはなりません。職員の情熱も、眼の輝きやイキイキとした表情も数値化できず、評価指標にはならない。しかし、熱を失い士気の凋落した役所ほどサービスの質が低下して住民の信頼を失い、失望を招くものはありません。自治体の顕著な衰退的兆候は、人口減少より、役所組織の沈滞化、低体温化にあるのです。
▽自由にのびやかに香る職員を
私は典型的な静岡人で、毎日20杯以上緑茶をいただきますが、どうもペットボトルやティーバッグのお茶は苦手です。毎回急須に茶葉を入れ、適温の湯を注いでしばし待ちます。心静かに待っていると、茶葉が急須の中でのびやかに広がり、芳醇な香りと味を醸し出します。見ていると、ヒトの育みも同じかも知れないなと思う時があります。職場、組織の中で心やすく、のびのびと自己研鑚しながら活動する職員は、斬新なアイデアと施策を豊かに醸成します。自由に生き生きと芳香を放つ味わい豊かな公務員を、組織的にたくさん育みたい。本シリーズで具体的に述べていきましょう。(了)
- ◇山梨秀樹(やまなし・ひでき)氏のプロフィル
- 1983年静岡県庁に入り、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室、藤枝市行財政改革担当理事、同市副市長、静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)などを経て、2019年4月から藤枝市理事。同年6月、人財育成センター長に就任。人財育成に関する論文、寄稿などを発表するほか、公務員の「言葉力」をテーマにした研修・講演の講師などを務める。