2023/令和5年
126日 (

コラム 【シティプロモーション再考7】外に向けて 2023/09/29 11:00

関東学院大学法学部教授・社会構想大学院大学特任教授 牧瀬稔氏

関東学院大学法学部教授・社会構想大学院大学特任教授 牧瀬稔

 シティプロモーションは、大きく3類型できます。それは①アウタープロモーション②インナープロモーション③インターナルプロモーションーです。

 アウタープロモーションとは、自治体の地域「外」に向けて当該自治体の特長を訴求していく活動です。その結果、住民の転入促進、交流人口や関係人口の増加、企業誘致等を目指します。

 インナープロモーションとは、自治体の地域「内」に向けて当該自治体の特長を訴求していく活動です。インナープロモーションは、郷土愛の高まりやシビックプライド(Civic Pride)の醸成を促進します。その結果、住民の転出抑制、Uターンの拡大等を目指します。

 今回はアンケート調査から、アウタープロモーションの取組み事例を紹介します。

 なお、シティプロモーションには、③インターナルプロモーションもあると考えます。インターナルプロモーションは、勤務する職員に対して当該自治体の特長を訴求していく活動です。その結果、職員のモチベーションアップ、離職の防止、庁内コミュニケーションの活発化等を目指します。

 また、議会がシティプロモーションをどのように捉えているかも説明します。

▽自治体を宣伝する媒体の作成状況

 シティプロモーションは、自治体の営業活動と言えます。営業活動の一つのツールは、自治体の良さを訴求したポスターです。そこでアンケート調査では、自治体を宣伝するポスターの作成状況を把握しました。回答結果は図表1のとおりです。69.3%の自治体がポスターの作成を実施していました。

図表1 自治体を宣伝するポスターを作成している

 次に、外部へ向けた自治体を紹介する小冊子の作成状況を把握しています。回答結果は図表2です。85.7%の自治体が特長を訴求するための小冊子を用意していました。

 ポスターや小冊子等のアナログツールは、前回紹介した広報動画(プロモーション動画)と同様に、多くの自治体が取り組んでいます。そのような中で勝ち残るためには(選んでもらうためには)、他自治体と異なる特色を訴えるための工夫が求められます。

図表2 外部へ向けた自治体を紹介する小冊子を作成している

▽シティプロモーションに関するホームページ

 アンケート調査は、シティプロモーションに関するホームページの状況も把握しています。設問は「シティプロモーションに関するホームページを整備している(自治体ホームページ内)」です。回答結果は図表3のとおりです。自治体ホームページ内にシティプロモーションに関するホームページを整備しているは48.5%でした。

図表3 シティプロモーションに関するホームページを整備している(自治体ホームページ内)

 前回紹介した広報動画(プロモーション動画)を製作したり、ポスターを用意したり、自治体の良さをアピールする小冊子を積極的に作っているものの、シティプロモーションに関するホームページは、(それらと比較すると)やや低調です。ヒアリング調査で、このことを担当者に問いかけましたが、明快な回答は得られませんでした。

 私見ですが、今までのシティプロモーションはアウタープロモーションの傾向が強かったため、「外」を志向した広報動画やポスター等に積極的だったのかもしれません。一方でホームページは、基本的に住民という「内」を対象としています。そのためホームページに関しては消極的だったのかもしれません。

 最後に図表4は「シティプロモーションに特化した専門外部サイトを整備している(観光協会等)」の回答です。結果は48.4%でした。

図表4 シティプロモーションに特化した専門外部サイトを整備している(観光協会等)

▽アウタープロモーションからインナープロモーションへ

 冒頭で言及しましたが、一概にシティプロモーションと言っても、アウタープロモーションとインナープロモーションに分けられます。近年まで、シティプロモーションの中心はアウタープロモーションでした。実態は、限られた定住人口の奪い合いです。

 また観光客に関しても、所得が増えない状況では、私たちが観光に行く頻度は限定されます。その結果、観光客の奪い合いが進んでいました(ただし、新型コロナウィルス感染症の発生以前では、インバウンドの拡大により、観光市場は全体として大きくなってきました)。

 アウタープロモーションは、自治体間競争につながっていきます。ずっと競争してきて、多くの自治体は疲れてしまったと言えるでしょう。繰り返しますが、限られたパイの奪い合いは不毛です。

 そこで、近年はインナープロモーションに力を入れる自治体が増えてきています。現在生活している住民に対してプロモーションを実施し、郷土愛やシビックプライドを高めていく取組みです。これは、民間企業が推進しているファンマーケティングに通じる部分があります。

 昨今、民間企業では「ファンマーケティング」(リレーションシップ・マーケティング)に注力しています。ファンマーケティングとは、ファンづくりを目指すマーケティング戦略です。企業と顧客との間に強固な関係性を築くことにより、企業に多くのメリットをもたらします。なおリレーションシップ マーケティングとは、企業と顧客との良好な関係づくりを通じて、企業と顧客の距離を縮めていくマーケティング手法を指します。

 今回のアンケート調査は、多くの自治体がアウタープロモーションを展開した時に実施たため、設問の多くがアウタープロモーション関係を尋ねるものでした。次回はインナープロモーションも踏まえて、シティプロモーションの実態を把握したいと思います。

 なお蛇足になりますが、筆者はインターナルプロモーションも重要と考えています。民間企業のインターナルコミュニケーションに類似した取組みです。組織内における広報活動です。近年、職員に対するプロモーションやコミュニケーションが希薄化しています。ここに自治体全体の総力が低下しているように感じます。

 私のゼミ生(本多氏)が、インターナルプロモーションをテーマに修士論文をまとめており、全国の市を対象にアンケート調査を実施しました。ご回答くださった自治体の皆様には感謝申し上げます。2023年10月をめどにまとめて、さまざまな媒体でアンケート調査の結果を発表していきたいと思います。(了)

◇牧瀬稔(まきせ・みのる)氏のプロフィル
法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。博士(人間福祉)。民間企業や神奈川県横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室、財団法人地域開発研究所研究部などでの勤務を経て17年から関東学院大学法学部准教授、23年4月に同教授。19年から社会情報大学院大学(現社会構想大学院大学)特任教授。公的活動としては、東京都新宿区や岩手県北上市、栃木県日光市、愛媛県西条市など多くの自治体でアドバイザーをしている。

【シティプロモーション再考】

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