インタビュー 【トップインタビュー】「全ての世代が復旧の第一世代」=宮坂尚市朗・北海道厚真町長 2023/09/22 08:30

44人が犠牲となった北海道地震の発生から5年を迎えた。土砂崩れなどで37人の犠牲者を出した厚真町の宮坂尚市朗町長(みやさか・しょういちろう=67)は「町民の老若男女、全ての世代が復旧の第一世代。復旧を遂げるという目標に一丸となって取り組めた」と語る。
「社会インフラが一気に破壊された前例のない状況。つらく、衝撃的な経験」と当時を振り返る。火力発電所の停止などにより国内初の大規模停電(ブラックアウト)も発生。約3200ヘクタールの森林が破壊され、土砂の流入で田畑も甚大な被害を受けた。
生活と生産に影響を及ぼすダムをはじめとした大型インフラの復旧は今年度中に完了する見通しだ。一方、森林再生は2026年度まで集中的に、宅地耐震化は生活の質を落とさないよう合意を得ながら27年度までに進める。被災者の心のケアは、専門家や地域のコミュニティーを活用しながら時間をかけて実施する。
地震発生前から、町では東日本大震災の教訓を職員間で学習してきた。災害に遭った地域のボランティアセンターで運営を経験させてもらうこともあった。実際の被災から約2週間の応急期でその効果を発揮。「仮設住宅や災害公営住宅の建設に関する道や内閣府への交渉もてきぱきできた。職員が一人ひとり責任を持って取り組んでくれた」と話す。
現在、被災時の対応をまとめ、反省などを踏まえた記録を取りまとめ中だ。「他の自治体の頼りにしてもらえたら」と話し、講演も積極的に行っている。また、震災を肌で感じられるよう、岩盤すべり跡を緑化せず、むき出しのまま保存する予定だ。
そんな中、町は昨年4月、50年までの二酸化炭素排出量ゼロを目指し「ゼロカーボンシティあつま」宣言を行った。大規模停電を経験し、「エネルギーを自給しなければいけないという使命感」から被災した樹木や太陽光の活用に当たってきた。「厚真町の象徴」と語るゼロカーボンビレッジの整備も進める。「先進的な取り組みと町のポテンシャルをかみ合わせることで、『地球に負担を掛けず心地よく暮らしたい』という人が町に増えるのでないか」と話した。
〔横顔〕町総務課参事を経て08年に初当選。バドミントンは20代から町長になるまで約30年間打ち込んだ。町長になって以降は野球などのスポーツ観戦が趣味に。
〔町の自慢〕外部から来た人を受け入れる町民の心のゆとりと優しさ。「開拓者精神が今でも息づいている」。サーフィンの名所「浜厚真」を有し、道内では唯一、全国大会が開かれる。
(了)
(2023年9月22日iJAMP配信)