iJAMPTimes 地元産食材、有機農産物でおいしい給食 地産地消、「食の安全」を40年かけ推進 2023/09/26 14:38
学校給食を活用した地産地消と食農教育に、長年、先進的な取り組みを続ける愛媛県今治市。今年8月、市教育委員会が主催する「日本一おいしい給食レシピコンテスト」が市内で開催された。子どもたちにふるさとの食の魅力を伝えていこうと、2021年度から始めた「日本一おいしい給食プロジェクト」の中心イベントだ。
昨年に続き、子どもたちが大きくなっても自慢できるような、地元産食材を使ったレシピを市民から募集。前年を36件上回る118件が集まった。当日は、書類審査を通過した11組が、それぞれ工夫をこらしたレシピで腕を振るい、1時間でメニューを完成。地元著名レストランのシェフらによる最終審査で、優秀賞4組、シェフ賞4組、敢闘賞3組の受賞者を決定した。このうち「キーマカレージャージャーメン」などの優秀賞とシェフ賞計8組の受賞作は、12月から順次、市内の小中高校の給食で提供される。
◇調理場の自校設置が転機に
今治市で、学校給食への地元産食材導入が本格化する契機となったのが、40年前の給食調理場の自校式への転換だった。
市内の学校給食調理を一括で請け負っていた給食センターが老朽化し、建て替えの是非が市長選の争点となった。各校個別に調理場を設ける自校方式を訴えた新人候補が当選し、1983年、立花地区の鳥生小学校がまず自校調理に転換。地場作物や有機農産物の給食への導入に積極姿勢を示していたJA今治立花が、同校向けにこれらの食材の優先供給を始めた。
以降、単独調理場もしくは小規模な共同調理場の設置が進み、現在は単独10、共同11の調理場で、市内小中高43校向けに約12000食を提供。自校調理の比率が高まるのに伴い、給食を通じた地産地消が広がった。
市は、全調理場に栄養士を置き、個別に献立を作成し手作りにこだわる体制を整えた。各調理場で献立が異なるため、1カ所ごとの野菜や果物の必要量が減り、出荷量が少ない地元食材を献立に採り入れやすくなった。栄養士は、子どもたちの食へのニーズを汲み上げることにも貢献した。市教委教育政策局学校給食課の阿部孝文課長は、「各校の栄養士に、生徒が『これ食べたい』『あれ食べたい』とリクエストしてくる。そういうリクエストメニューもあって、(自校式移行当初から)給食はおいしかった」という。
◇米、パン用小麦はほぼ全量供給
地元産農作物の使用状況は作物ごとに差はあるが、主食の米飯とパン用小麦は、いずれも全量に近い供給率を確保している。
米は99年から、JA今治立花が中心となり市内産の「ヒノヒカリ」を、週3回の米飯給食用に供給。給食の安全性と品質向上を目的に、農薬・化学肥料の使用量を50%以上削減した減農薬米を充て、05年には全調理場で、地元産減農薬米を全量使った米飯給食を実現した。給食米の年間必要量は玄米換算約120トンで、同JAは30ヘクタールの栽培面積を確保。米は玄米で保管し、月3回に分けて精米し各調理場に配送しており、つき立て、炊き立てで食べられるのが好評だ。
地元産小麦を使ったパン給食は01年に開始した。パン用小麦は、もともと市内で全く生産されておらず、段階的に作付面積を広げ供給を増やしてきた。19年度には週2回のパン給食用に、地元産小麦「せときらら」100%のコッペパンを約38トン供給。22年度には地元産小麦の供給率が92%に上った。
パン用小麦の市内生産は、20年時点で玄麦171トンに拡大した。市産業部農林水産課の渡部誠也課長補佐は、「給食用原料を米国産などから今治産に切り替えただけで、一粒も作られてなかったパン用小麦がこれだけ生産されるようになった」と評価。「地産地消によるローカルマーケットの創出」として、地域農業振興のプラス効果に期待する。
◇有機農業振興をまちづくりの柱に
市は05年、12市町村合併による行政規模拡大に合わせ、新たな「食料の安全性と安定供給態勢を確立する都市宣言」を決議し、翌06年には「食と農のまちづくり条例」を制定。有機農業の振興を、地産地消、食育推進とともに政策ビジョンの柱に掲げた。
40年前に給食向け供給が始まった地元産有機農産物は、現在、JA今治立花管内の生産者グループ「立花有機農業研究会」が生産を担い、立花地区の鳥生、立花、吹揚3小学校の調理場に、野菜・果実など約20品目、1500食分が提供されている。毎月、JAが各調理場から翌月の青果物使用計画を集め、研究会の会員農家から出荷可能な品目を聞き、入札、出荷割り当てを行い、安定供給を保っている。
ただ、3校以外には地元産有機食材の使用は広がっておらず、市の学校給食全体での有機野菜使用率は重量ベースで4%(22年度)にとどまり、市全域での有機野菜使用促進が課題となっている。
こうした現状もふまえ、市は今年度予算の「地産地消推進事業費補助金」に、従来の地元産米、小麦、大豆などの購入費の差額補助に加え、立花地区だけでなく新たに市内の全小中学校で有機野菜を提供するための補助金を盛り込んだ。今回は年1回の実施だが、12月8日の「有機農業の日」に、全調理場で有機食材を使った給食を提供する予定だ。
◇給食の味、8割が高評価
食農教育の分野では、今年は、市が運営する実践有機農業講習会の施設を借りて、吹揚小の児童がサツマイモ栽培の農業体験を行っている。2年生が植え付けと収穫、5年生が調理メニューを考え、シチューやモンブランケーキを作り学内で食する予定だ。学校農園での有機農業体験も継続しており、JA営農指導員が児童を直接指導。市からは農機具購入や種苗・肥料の助成も行い、これまでに小学校4校が有機JAS(有機農産物の日本農林規格)の認証取得に成功した。
有機野菜の供給を支える立花有機農業研究会では、会員が当初の11人から4人に減っており、JA今治立花生産部生産課の矢野真也係長は、「高齢化が進む中で後継者をどう確保するかが課題」と指摘する。生産・流通コストの上昇や、地元産食材の安定供給、安価な給食費の維持なども、今後の懸案事項だ。
ただ、市が22年度に実施した学校給食アンケートでは、全児童・生徒の43%が「とてもおいしい」、36%が「おいしい」と回答しており、子どもたちの評価は非常に高い。食の安全や食料安定供給への関心が一段と高まる中、今治が40年かけて培ってきた子どもたちの地元産食材に対する信頼感は、まちづくり推進の大きな資産となりつつある。(PR)
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