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iJAMPTimes 路線バスで直売所から飲食店に野菜輸送 地元で日本料理として提供、農家の喜びに 2023/09/27 09:32
神戸市随一の繁華街、中央区の三宮駅から市営地下鉄西神・山手線に揺られること約30分。西区にあるターミナル駅、西神中央駅に到着する。駅前にはショッピングセンターやマンションが建ち並び、さらに周辺には戸建て住宅群や産業団地が広がる。1970年代に開発が始まった「西神ニュータウン」だ。
その西神中央駅から車で約10分、風景がニュータウンから里山に切り替わろうというところに、JA兵庫六甲「農協市場館 六甲のめぐみ」がある。
開業は2004年11月。売り場面積は800平方メートルと兵庫県内の直売所として最大規模を誇る。
地域住民を中心に年間約56万人が来店し、販売高は14億7000万円。そのうち地元の農畜水産物は13億5000万円と9割を超える(22年度実績)。休日は開店前に行列ができる地域の人気スポットといえる存在となっている。
◇輸送は週3回、バス停から
店長 南陽介氏
六甲のめぐみが手掛けているのが、既存の路線バスを活用した貨客混載輸送だ。
輸送は毎週、月、水、金曜日の3回。まず六甲のめぐみが、提供できる野菜などの提案書を駅前のショッピングセンター「エキソアレ西神中央」内にある飲食店「旬菜みやこ」に提示する。旬菜みやこは提案書を基に輸送前日までに野菜やコメを注文する。 六甲のめぐみでは輸送当日朝、注文を受けた野菜やコメを売り場からピックアップ。専用コンテナに入れて、午前9時40分に最寄りのバス停「農業公園」を出発する神姫ゾーンバスの路線バスに積み込む。バスは12分で西神中央駅前バスターミナルに到着。旬菜みやこの店員が受け取って台車で店舗まで運ぶ段取りだ。
輸送しているのは旬の野菜やコメが中心。夏場の現在は、オクラ、ズッキーニ、ナス、枝豆、ミニトマト、リーフレタスなど。冬場はハクサイ、ホウレンソウ、コマツナ、ダイコンなどになるという。1回の販売額は1万~2万円だ。
1回の輸送料金はバスの大人運賃と同じ210円(2箱目以降は小児運賃と同じ110円)。六甲のめぐみはトラックの配送作業が軽減された。旬菜みやこにとっては、トラックに比べて輸送料金が大幅に下がってコストを削減することができた。
六甲のめぐみの南陽介店長は「地元の生産者が作った野菜やコメを飲食店に買ってもらい、お客さんに食べてもらえる。農家さんはすごく喜んでいる」と笑顔をみせる。

◇5カ月の実証事業を経て
駅まち推進課係長 郡佑毅氏
きっかけは国土交通省が地域交通の維持や活性化を狙って実施した「共創モデル実証プロジェクト(共創による地域交通形成支援事業)」。これにJA兵庫六甲、神姫バスグループのほか、神戸市、エキソアレ西神中央(運営は双日)が連携して、既存の路線バスを活用した貨客混載輸送の実証事業を提案し、採択されたことだ。ニュータウンと農村が混在するとともに、人口減少や少子高齢化、バス旅客需要の減退に悩む地域にとってはうってつけだった。
実証事業は22年10月にスタートした。23年2月まで5カ月の期間中の野菜輸送実績は、合計42回、83コンテナに及び、採算ベースに乗ったことから、3月以降、本格運行にこぎ着けることができた。また、路線バスを活用した移動販売事業も併せて実施し、エキソアレ西神中央からパンや菓子、弁当などを郊外の「月が丘団地」まで輸送。団地内の駐車場に停車したバスの車内で販売し、利用者は累計1000人という結果だった。
神戸市都市局駅まち推進課の郡佑毅係長は「農村とニュータウンで人とものがうまく循環できるSDGs(国連持続可能な開発目標)の取り組みの一環だ。地産地消の推進、売れ残りを減らすフードロス対策にも貢献できる」と強調する。
◇「無理をすると続かない」
実証事業が本格運行につながったのは、六甲のめぐみの地道な取り組みが背景にある。これまでも西神中央駅での地下鉄販売のほか、三宮のホテルや飲食店など75、6店舗に野菜やコメを配達するなど着実に実績を積んできた。また、北海道から沖縄県まで全国約10JAと提携を組むなどして、品ぞろえを豊富にしてきた。
今後の展開としては、まずは西神中央駅のもう一つのショッピングセンターに進出する見通しの飲食店への路線バス輸送だ。23年度中のスタートを目指して調整を進めている。
とはいえ、路線バスを使ったさらなる輸送の拡大というと、ハードルは低くない。最大の課題は、注文を受けた野菜やコメをピックアップしてコンテナに詰めるといった地道な作業の人件費だ。
六甲のめぐみの南店長は、今回、関係者で段取りを詰めた上で、実証事業で成否を見極めて本格運行に至った経緯を踏まえ「どこかが無理をしてしまうと続かない」と冷静だ。ただ、その冷静な姿勢から、積み重ねてきた実績への確かな手応えが伝わってくる。地産地消、そして「国消国産」につながる取り組みとして期待は大きい。(PR)