コラム 【現場力を高める2】管理職ができること 2023/10/18 11:40

静岡県藤枝市人財育成センター長 山梨秀樹
▽空気をつくる
課長として職場を経営する。その職に就いて、まず取り組むことは何でしょう?部下はあなたを常に観察しています。その日のあなたの動静を見て、報告や相談、決裁のタイミングをはかり、顔色、機嫌にも敏感です。課長の一挙手一投足が、課内に影響を与えています。
あなたの職場の空気は、ほかならぬあなたがつくっているのです。職員は首長や管理職の上意下達で動くだけの「手駒」ではなく、各人が住民に向けた施策・事業の創造者です。課員が自由に考え、アイデアやプランを言い出せる雰囲気、臆せずに仕事への思いを交わすことができる空気があれば…。私は、どうしたら部下が自らの発想で次々に成果を出し、実りある豊かな公務員人生を培うことができるかに焦点を合わせたい。課員の職業人生に軸足を置いた職場経営をしたいと考えています。
▽管理職が使う言葉がある
そのための空気はどうやってつくるのでしょうか。最も簡単で即効性があるのは、あなたが使う日頃の言葉です。同じ言葉も、職位が上がれば重く受け止められます。管理職の言葉は重い。効果的に発すれば、部下の士気の高揚、気概や情熱を引き出すことができます。職場経営の要諦とも言えます。
どう発するのか。それはとても簡単です。課員の個性や優れたところを生かして伸ばせるよう、明るい言葉を考えれば良いのです。毎日、部下にどんな言葉を掛けていますか? 私のおススメは、①朝の元気な挨拶に始まり②部下をねぎらい③時折温かい言葉を掛ける④部下を励まし、最後に⑤声を上げて笑う―ことです。そしてこの5つの言葉行動の中に、指示や指導を簡明に織り込みます。
日々のあなたの言葉が少しずつ課内に浸潤し、日常化され、穏やかで明るい職場の空気が醸成されていくはずです。もちろん、予算も全く要りません。
▽落ち着いて指導する
併せて大事だと痛感するのは、対話力の研磨です。部下から不十分な資料で新規事業の相談をされたとき、あなたはどう答えていますか?豊かな知識や経験から思いが先行し、カッとなってすぐダメ出し?それもいいでしょう。しかし、不備が目立つ資料でも、担当者の視点や課題感など、どこかに良いことが書かれているはずです。まずそこは褒め、評価しましょう。叱るのはその後です。
もっとも、はじめに褒めてしまうと後で叱りにくくなりますが、それでいいと思います。あなたがいかに正しくても、大声と𠮟責で部下は育たない。着火の勢いに任せ、興奮して説教に声を荒げるのではなく、トップらしく落ち着いて指導すればいいでしょう。どこが良く何が不十分か、目指す方向性や段取りなど、明瞭にゆっくりと話した方が、部下の理解と改善は早いと思います。
▽雑談のススメ
部下との会話で雑談ほど有効なものはなく、仕事の会話より重要だと思う時がよくあります。雑談こそ言葉の最大戦術です。
じっと長く眉間にしわを寄せている係長を見たら、「どうした?」と声を掛けるのもいいですが、それでは芸がありません。席まで行き、「昼に食べ過ぎて眠い。何か面白い話ない?」などと突っ込みます。「いやそれが課長、実は…」と返しが来たらしめたものです。カタチがついてから相談せよと、さも当たり前のようなことを言って部下との距離を作らなくてもいいでしょう。
深刻な課題ほど早く議論したくありませんか?一度で結論が出なくてもいいのですから、厄介な問題ほどあなたが早くから関わり、協議を進めるべきです。
私のくだらない雑談好きは、かつてお世話になった上司の影響かもしれません。笑顔を絶やさず、ダジャレばかり飛ばして時折部下の失笑を買っていた上司でしたが、理念より自身の経験から部下にアドバイスして面倒見が良く、仕事はハードな課でしたが、雰囲気の明るさは抜群でした。職場の空気次第で、苦しい仕事も楽しい思い出となり、自らの成長やキャリアを実感できるものです。
課員はあなたの立ち居振る舞いを見て育ちます。部下が将来、管理職になったとき、どうすれば優れた職場の空気をつくれるかを知っているか否かは、次世代の職場経営にとって大変重要だと思います。
▽「役職」を演じる
あなたは要職にあります。私は役職というのは「役を演ずる職」だと思います。職場を経営するリーダーの役を演ずるのです。あくまで自分らしく、地金で部下に臨むのもいいでしょう。でもそれが職場全体の空気になります。良いものにしたいなら、良い人である演技は必要です。私は積極的な役作りをお勧めしています。
朗らかで気さくで、受けないギャグを飛ばし、たまにそそっかしいが、大事な時に前面に出て大いに威力を発揮する。そんな役職を演じてみませんか。素を離れた演技もなかなか面白いものです。無理を続けると疲れますが、「良き人」の役をしていると意外に気分が良くなり、長く続けているうちに演技が板について本物になります。その頃に改めて課内を見渡してみましょう。驚くほど元気になっていますよ。(了)
- ◇山梨秀樹(やまなし・ひでき)氏のプロフィル
- 1983年静岡県庁に入り、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室、藤枝市行財政改革担当理事、同市副市長、静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)などを経て、2019年4月から藤枝市理事。同年6月、人財育成センター長に就任。人財育成に関する論文、寄稿などを発表するほか、公務員の「言葉力」をテーマにした研修・講演の講師などを務める。