インタビュー 【トップインタビュー】「一つのうち」のような町に=本田学・北海道陸別町長 2023/11/13 08:30

北海道の内陸部に位置し、マイナス30度を下回ることもある「日本一寒い町」の陸別町。人口約2200人で、「どこに誰が住んでいるか分かる」という本田学町長(ほんだ・まなぶ=52)は「『一つのおうち』のような町にしたい」と語る。フットワークよく町内外を回る「現場主義」を信条とし、コミュニケーションを密にし、住民に寄り添う町づくりを目指している。
陸別町で育ち、高校卒業後、札幌の専門学校に通っていた時、父親が病に倒れ、20歳でテント製品や釣り具を製造・販売する家業を継いだ。10年後には、仕事を手伝ってくれた母親の心労で2度目の「どん底」を味わった。二つのつらい経験を支えてくれたのが、町の人たちだった。12年前から町長を志し、町議を3期務め、4年前には議長に就任。今年4月の町長選では、3期目を目指す現職に競り勝った。「『もう1期待て』と助言した支援者もいたが、体力や気力などを考慮」して、出馬に踏み切った。
過疎化に歯止めがかからない故郷を看過できなかった。林業や酪農を主要産業としているが、「経営状況は悪くないのに、後継者不足で廃業に追い込まれるケースが何年か先に出てくる」と懸念。医療・介護現場の人手不足も悩みの種で、「スーパーが一つなくなるだけで、『買い物難民』が出てしまう」と危機感を募らせる。
「町としてどのようなことができるかという局面に入っている」との思いから、トップセールスや新規就農を手厚く支援する取り組みに注力する。地域おこし協力隊については、3年の任務を終えた後、「町も一定の責任を持って自立を支援する」ことを検討している。町を訪れる交流人口や関係人口を増やせれば、「経済も回る」と考え、本物の鉄道の運転体験ができる道の駅「オーロラタウン93りくべつ」や大型天体望遠鏡を備える「銀河の森天文台」、町内のイベントなどをうまく結び付け、観光客の拡大を目指す。食べ物が中心のふるさと納税の返礼品に関しても、新たな切り口がないか知恵を絞っている。
町長職は「やりがいがあり、毎日緊張感がある」という。自宅で眠っている時も、ため息をついたり、「ああ、そうか」と寝言を言ったりしているらしく、ピアノ教師の妻からは「寝てまでも仕事をしているのか」と冷やかされる。自分では、行動力が旺盛な分、短気な部分もあると分析するが、「切れたら負けだ」と自らに言い聞かせている。それでも「朝ごはんを待っていられないから、自分で作ってしまうこともある」と笑顔で話す。
〔横顔〕北海道商工会青年部連合会副会長、十勝観光連盟副会長、陸別町議会議長などを経て今年5月に町長就任。高校時代はバンドを組んでギターを弾いていた。趣味は無線操縦の車のプラモデル作り。「飾るよりも走らせて遊びたい」という。
〔町の自慢〕連日マイナス20度を下回る2月に極寒の野外で行う「しばれフェスティバル」。1982年から開催され、氷のかまくらで一晩過ごす企画は人気が高い。
(了)
(2023年11月13日iJAMP配信)